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10:エフューの宝箱
公園の三日月噴水には、夕焼けの緋色が宿り、微笑みをたたえた唇を象っている。その上方に輝く教会の色硝子は、葡萄色の双眸を瞬かせ、路地を埋める黄色い小花は豊かに波打つ黄金の髪だ。
「オオキイヒト……でも、あれは……」
ちょうど、エフューの家の煙突から煙が吐き出された。
ぷかぷかと真円を描く白い煙が、空の星を散りばめて街に降る。街で一番高いエフューの家の屋根へと舞い降りたそれは、王侯貴族の頭を飾るティアラのようだ。
迷路のような歪な街が、一人の姫君の姿をそこに描いていた。
「……わたし? 大きい、わたし?」
「そうだ」
この時を待っていた、そう言いながらもルルリェは、悲しみに震えた眼差しをエフューに寄越した。
「ここは、お前の理想を詰めた宝箱。誰もお前を傷つける者のいない、しがらみから解き放たれた子供だけの街。お前一人の手で皆を守ることができる、理想郷だ」
「ルルリェの言っていること……難しくて、よくわからないわ……」
だが彼の言葉を裏付けるように、開かれてしまった宝箱の中は空っぽだ。街の子供らが……グランが……もうどこにも見当たらない。
大きいエフューが、慰めるように微笑んでいるだけだ。
「わたしは、どうしたらいいの」
「もう目を閉じていい」
エフューを抱き込む大きなルルリェの腕の中は、彼の冷たい目の色に似つかわしくない、甘い匂いがした。
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