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落丁していた『魔導士ルルリェの手記』①
お前が眠りに堕ちて、はや十日。
身体が衰弱し始めている。目覚めさせるなら、今をもって他にない。
大方のことは想像がつく。お前が眠りについたわけも、夢の中でどうしているのかも。
いっそこのまま、眠らせてやった方が幸せなのではないだろうか。
だが、わたしは……お前まで亡くして、生きていけるだろうか。
亡国の至宝であるお前を、護り育てることがわたしの使命であると信じてきた。だがもはやそれだけでは、この数日の焦燥に説明が付けられないのだ。
お前はわたしにとって、実の娘も同然。
残酷かもしれないが、わたしはこれからお前の夢を壊しにいく。そしてわたしの宝を、この手に抱くのだ。
万が一、夢に取り込まれ、帰ってこられなかった時のために、この手記を残そう。
ああ、だが、帰ってこられた時には、必ず破棄しなければ……。お前に見られたらなんと言われるか……、たまったものではないからな。
〈終わり〉
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