1:オオキイヒト

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1:オオキイヒト

 エフューはとても慌てていた。  今日は朝いちでミレーの丘に行かなければならないのに、朝寝坊してしまった。釜の火を入れる暇もなくて、今朝はパンが焼けなかった。だからお腹は切ない声で鳴いている。  おまけに寝室の窓を閉め忘れてしまったせいで、大切な家族のグランが飛び出していってしまった。  グランはとっても臆病で、エフューがフードの中に匿って守ってあげないと、外を歩けないのに。だからエフューはとてもとても慌てて、たっぷりした金の巻き毛を揺らし、街を走り回っていた。 「きっとパニックを起こして、帰ってこられないんだわ」  屋根の上にも軒下にもいなかった。どこまで行ってしまったのだろう。エフューは気が気でない。 「グラン。グランったら。出てきて。あなたの家族、エフューがお迎えに来たわよ」  小さな脚をせかせか動かして、あちらこちら覗き込む。  街の子に尋ねてみようと思っても、どうしてだろう。今日はどこにも子供たちが見当たらない。  エフューはどんどん坂を下っていって、とうとうみんなの姿を見つけた時には、街の入り口までやって来ていた。  子供たちは、街を取り巻く白くて甘い城壁を見上げるようにして、一団となっていた。彼らが遠巻きに見つめているのは、それはそれは大きな……ひとだ。 「まあ、なんて大きいの。わたしたちとは全然違う。あんな生き物、初めて見たわ」  エフューが近くに寄って、ぱんぱんと手を打ち鳴らすと、みんな魔法が解けたように我に返って、大きなひとから目を離した。 「エフュー。どうしよう、変なのが来たよ。おっかないよ」 「この生き物はなに?」  同じ背格好の子供らが、やはり子供のエフューに不安を訴えまとわりつく。エフューだって知らないものは知らないし、ちょっと怖い気がするのは同じだ。だけどそれよりも、好奇心が(まさ)った。 「わたしがお相手してみるわ。みんなはもう仕事に戻って。そう、それと……グランを見たらエフューは丘に向かったと教えてあげて。ああ、本当にどこに行っちゃったのかしら。あの子がこんな不思議な生き物見たらひっくり返っちゃうわ」  エフューに促され、みんな自分たちの店へと帰っていく。  城門前に大きいひとと二人きり、エフューは胸をどきどきさせながら大きく深呼吸して話しかけた。
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