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2:タビビト
「こんにちは、わたしはエフュー。あなたはだれ? どこから来たの? どうしてそんなに大きいの?」
真っ黒い髪をした大きな人は、静かにしろと言わんばかりに、エフューの前に手を突き出した。意を介したエフューがお口の体操をやめると、ぶっきらぼうな声がぽとんと落とされた。
「質問は一つずつ。まず初めに何が訊きたい」
「あなたはだれ?」
「ルルリェだ」
「どこから来たの?」
「遠い国からだ」
「どうしてそんなに大きいの?」
「大人になれば、みんなこうなる」
「オトナってなあに?」
エフューは爪先立ちでルルリェを見つめた。大粒の葡萄のような眼が、くりくりとよく動く。
「お前より大きい者はいないのか?」
「わたし、お前なんて名前じゃないわ。さっき名乗ったでしょう? エフューよ、エ・フュー。このフュ……の音がいいのよね」
「……その名は誰に貰った?」
「え? ……知らないわ、だって名前なんてみんな当たり前に持っているものでしょう?」
「そんなことはない。そうだ、さっきの問いに答えるなら……」
ルルリェは灰白色の瞳で、どこか哀しげにエフューを見下ろして告げた。
「お前のような小さき者に、幸多き生を願って名を贈るのが、大人というものだ」
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