21人が本棚に入れています
本棚に追加
『魔導士ルルリェの手記』③
かつて、人形劇の街という〈作り物〉の町を訪れたことがあるわたしは、ここもそういう類の場所なのだと、己を納得させることができた。
何者かが、何らかの目的で子供だけを集めた街。
ここが宝の在処だと確信を抱いたわたしからすれば、目的は明白だ。宝を守るため、以外に何が考えられようか。
そしてこの〈エフュー〉という少女が、街の謎を解く〈鍵〉なのだろう。
エフューという少女は、他の子供らとは明らかに異彩を放っていた。
往々にして子供というものは、一つのしるべとして、親なり身近な大人を目で追いかけるものだ。ところがこの歪な地において、住人である子供らの眼差しはエフューに向けられているのだ。
彼女が特別優れた容姿をしているとか、頭一つ抜きん出ているとか、そういう類の羨望の眼ではない。
彼女のすることが正しい、と──誰も彼もが信じきっている様子なのだ。
そのおかしな様相に、エフューは気付いていないようだ。少女自身、他の子供らと変わりない、住人の一人であると疑っていないのであろう。
ならばわたしは、少女のその純心を利用させてもらう。
わたしには、王より授かりし大切な任があるのだ。何としてでも、宝を手中に収めねば。
最初のコメントを投稿しよう!