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3:小さなお姉さん
「ルルリェの言っていること、難しくてよく分からないわ」
興を失ったようにくるりと背を向けたエフューだが、もう一度振り返って、金の巻き毛から覗かせた顔には屈託ない笑みが浮かんでいた。
「わたし、これからあっちまで行かなくちゃいけないの。だから街を案内してはあげられないけど、よかったら付いてくる? 通り道なら案内できるわ」
指差す方に小高い丘があった。黄色い花を付けた枝を天へ伸ばした、大きな木が一本きり生えていて、その足元には色とりどりの花が絨毯を広げている。
大きい人、ルルリェは彼方を見遣り、ぽつりぽつりと舌の上で何かしらの言葉を転がしていた。しばらくして彼は、エフューに向き直って小さく頷いた。
「よろしく頼もう」
「いいわ。ついてきて、ルルリェ。手を繋ぎましょうか?」
小さな手を差し出したら、灰白色の瞳は何とも怪訝にしかめられた。それがエフューにはとてもとても不思議だ。
エフューにとって彼は、何も知らない新参者。迷子になったら大変だ。きちんと面倒を見てやらなければと思ったのに。
「必要ない」
「まあ、ルルリェはとってもお利口さんね。それじゃあ行くわよ」
意気揚々と丘を目指すエフューの後ろで、深いため息が溢れる。──が、ここはどこそこ、あれはなにこれ、と……張り切って街を語るエフューの声に、ルルリェの憂いは呆気なく掻き消されてしまった。
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