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4:価値あるもの
ミレーの丘では、枝ぶりがしなるほど、たわわに黄色い花を付けたアカシアが二人を待ち構えていた。
根元には、エフューが座るのにちょうどいい大きさの石が、滑らかに撫でられた面を差し出している。
「ルルリェはここに座って。街がよく見えるわよ」
ルルリェの尻にはちょっとばかり小さくて、座り心地が悪そうだ。謝して辞し、彼は石の隣に腰を下ろした。
見晴かす街並みは、各地を旅してきたルルリェの目には奇異に映った。くねくねと曲がりくねり、入り組んだ通りの多いこと。そのうえ勾配もデタラメで、上っては下り、下りては上ってと、やたらに坂の多い街だ。
「迷路遊びができるのよ。今日はルルリェを羊ヶ原まで連れてってあげる」
アカシアの木から花枝をもいだエフューは、石に座って、街に軌跡を描く。
「スタートはわたしの家よ。街の一番高い所に煙突が見えるでしょう? そこから色硝子が二つ並んだ教会を抜けて、三日月の噴水公園でくるっと回って……」
「そんなことより、お前はここに何か用があって来たのではないのか?」
「あっ、いけない! そうよ。わたし、お仕事に来たの」
エフューは黄色い花のついた枝を、宙にかざすと、楽団の指揮者のように優雅にしならせた。
綿菓子が生み出す湿った甘ったるい風に、アカシアの澄んだ甘さが加わる。エフューが手首で小さく円を描くと、黄色い花はふるふる震えて、枝からはらはらと零れ落ちた。
──りん、りん、りんっ。
足元に咲き乱れる花の絨毯に落ち零れる花弁は、ルルリェが思いも寄らぬほど硬質な音を立てた。
摘み上げたそれは、金貨だ。
「わたしのお仕事は、みんなにお金を作るの。欲しいものはお金と交換するのよ。お金を集めるのが好きな子もいるし、なくしちゃったり使いすぎて足りなくなっちゃう子もいるでしょ? その分を作って、みんな一緒にするのよ。ルルリェもここにいるなら必要ね。あげるわ」
木から次の花枝をもいで、もう一振りすると、たちまち足元に金の花が咲く。
小さな手いっぱいに差し出された金の花を、ルルリェはぎょっとした顔で見つめた後、眉根を寄せた。
「貨幣の価値は……限られた資本を奪い合うことで生まれるものだ」
「奪う? 喧嘩はよくないわ。はい、どうぞ。ルルリェ」
ルルリェはそれはそれは大きなため息をつき、決してその花を受け取りはしなかった。
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