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5:おもいのまま
麻袋いっぱいに金貨を作って、エフューは一息つく。
もうどうしようもなく、お腹は獰猛に鳴いていて、これ以上力も入らなかった。
それでエフューは空に手を伸ばし、おいでおいでと手招く真似をする。すると、空に浮かぶ雲からふわりふわりと、生まれたての雪のような柔らかいものが小さな手に舞い降りてきた。
ふかふかの綿菓子だ。
「今日は木苺味」
エフューは花畑から黄色と赤と白の花を摘んで、絞り出した蜜を綿菓子にかけた。綿菓子はつやつやした橙色に染め上げられる。
どうぞ、と差し出されたそれをルルリェは半信半疑で口に含んだ。果汁がはじけるように、きめこまかな甘い糸が口の中でいっせいに解ける。それはまさしく、野山に垣を作る木苺の実。旅の道中、ルルリェの小腹を満たしてくれる味と相違なかった。
「それは魔法か?」
「知らない。でも、わたしができると信じたことは、なんだってできるの」
「……羨ましいことだ」
「もちろん、苦労して焼いたパンの美味しさには、敵わないけどね。ルルリェはしばらくここにいるの? いるなら、ぜひうちに泊まって。そうしたら、明日はわたしのパンを食べさせてあげるから」
「いや、用が済んだらすぐにでも出ていこう」
エフューは落胆を眉尻に露わにした。
「そうなの……。寂しいわ、せっかくお友達になれたのに」
「……連れて行ってやろうか」
「えっ……」
エフューの瞳がきらりと輝いたのは、瞬きの間だけだ。
「ううん、だめだめ! グランがいるもの。グランはとても臆病なの、この街から出られないわ」
「そのグランとは、向こうから来るアレのことか?」
ルルリェの指差す方に、丘を駆け上がってくる黒い影がゆらり揺れている。やがて姿を現したのは、艶々とした真っ黒い毛並みの、一匹のネコであった。
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