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6:幸運の鍵
黒ネコは辺りをきょろきょろ警戒し、己が立てる足音にすら驚いているようだ。
「グラン、ここよ」
エフューの呼びかけに、ネコはほっとした様子で、一気に丘を駆け上がる。差し出されたエフューの手に擦り寄るや、その肩に飛び乗って、フードの中に潜り込んだ。
ぷるぷるとした細かな振動が、エフューのうなじを撫でた。
「この子がグランよ。ね? とっても怖がりなの」
「そのようだ」
「おかえりなさい、グラン。中に入ったままでいいから聞いてね。この大きな子はルルリェよ。びっくりするくらい大きいだけで、わたしと同じ人間よ。怖くないわ」
「失礼なやつだ。……やあ、君がグランか」
大きな手がグランの鼻面に迫る。驚いて後ずさったグランのお尻で、エフューのフードが不自然に跳ね上がった。
しかし深追いしてこない、ただそこにあるだけの手に少なからず安心したのか、ややあってグランはフードから顔を覗かせた。小さく、湿った鼻先がルルリェの指先にご挨拶をした。
「まあ、すごいわ。街の子にだって、こんなに気を許さないのに。やっぱり、わたしの思った通り。ルルリェって見た目が怖いだけで、とってもいい子なんだわ」
「馬鹿にしているのか」
いつの間にやら、グランはルルリェの腕に抱かれて、艶やかな被毛としなやかな背筋を差し出していた。大きな手で撫でられる度に、気持ちよさそうに喉を鳴らした。
頭から尻へと抜けたルルリェの手が、ふと何かに気付いて止まる。
「尾が曲がっている」
「ええ、この子かぎしっぽなの。かぎしっぽはね、幸運を引っかけてくるのよ。だからグランと暮らしているわたしは、いつでも幸せなの」
「ほう……。では、これも幸運か?」
グランのしっぽに引っかかっていた何かを、ルルリェはするりと解いて差し出した。
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