未練の幽霊

2/10
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「ねぇ、知ってる?図書室の噂」 「あー、うちの七不思議ってやつでしょ」 「そう!比較的新しくできたやつらしいんだけど、なんか他の七不思議とは違うんだって!」 「他と違う?」 「ふふ。なんと、恋のキューピッドになってくれる幽霊がいるんだってさ!!」 「まさか。幽霊がキューピッド?ないない」 「いや、ちゃんと最後まで聞いてよ!ある決まった本を発行順に取り出して、最後の7冊になった時、その7冊目のラストページに載っている文を唱えると幽霊が出てくるんだって」 「うわぁ、めんどくさいな」 「そこがいいんじゃん!」 「で、その決まった本は何か分かってるの?」 「いやぁ、それが誰も知らないんだよねぇ。やり方は知られているんだけど、それがどの本かは誰も知らないんだって」 「じゃ、無理ゲーじゃん」 「そうなんだよねぇ笑」 女子生徒の会話を聞きながら、「青春だなぁ」と微笑む教師、日日(たちごり)。 しかし、下校時間なのでさりげなく注意をした。「そろそろ帰りなさい」 「はーい!」 カァカァと遠くから烏の鳴き声が聞こえてくる。先程の噂が気になり、日日は図書室へ入った。紙の匂いがふわっと鼻をかすった。誰もいない図書室の椅子に腰掛けた。 「…懐かしいな」 そう呟いた日日の顔はどこか悲しそうだった。青くて苦い思い出を巡るかのように、彼は目を閉じた。 『僕ね、図書室が好きなんだ。もっとみんなに利用してもらいたいから、こんなこと思いついたんだよ』 穏やかな口調でそう話す男の姿が目の裏に浮かんだ。彼は、本が大好きで時間さえあれば図書室に寄っては本を読んでいた。本を読む彼の横顔をそっと眺めるのが日日の日課だった。 『あのね、――――』 彼が言った言葉が思い出せない。重要なことを言われたような気がするが、そこだけ靄がかかって思い出せない。 日日は目を開けた。いつのまにか、夜になっていた。 ふと、窓から外を眺めると懐かしい人物がいた。目頭が熱くなり、日日は慌てて図書室から出る。玄関に向かうと既にその人物はいなくなっていた。 頭を振り、「ありえない」と思考をかき消した。だって、彼は18年前の今日、亡くなったのだから。日日に何も告げることなく、彼はたった15歳でこの世から去った。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!