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今日の校内見回り担当は日日である。時刻は放課後の16時。部活に入部していない生徒が残っていないか、見回りをしていた。彼は旧校舎の図書室にて、珍しい人物を見つける。
「珍しいな、津雲」
「たまには本を読んでみようかなと」
「部活はお休みか?」
「はい。久しぶりの休みなので」
「そうかそうか」
伊月は桃青からの頼み事を思い出す。
『明日、“KAIRI”っていうペンネームの小説を探して欲しい。全部で7冊あるはず。俺もやることが終わったら、そっちに行く』
その名前を探すために一冊ずつ本を見ていく。
「何を探してるんだ?」
日日の問いかけに伊月は「うーん、簡単にいうと18年前の忘れ物、っすかね」と笑って答えた。
『18年前にその本が生まれたんだ。詳しいことは言えないけど、絶対に見つけてあげたいんだ』
桃青が力強くそう言うものだから、伊月はその通りにするしかない。
「18年前…の忘れ物?」
伊月の言葉を繰り返す日日。何か心当たりでもあるのだろうか。
「え、どうしたんすか?」
「いや、実は俺はここの卒業生なんだよ」
「そうなんすか」
「そう。15年前に卒業したから、思わず反応しちゃったな」
それは初耳だな、と伊月は「ふーん」と相槌をうった。
ガラッとドアが開く音がした。
「伊月と日日先生」
桃青であった。
「お、梵か」
「お疲れ様です」
桃青が日日のところに行っている間、伊月は引き続き本探しを進める。
「日日先生」
「うん?」
桃青は真っ直ぐな、力強い眼差しで日日を見つめている。
「なんで教師になったんですか?」
その問いかけに日日は一瞬だけ、肩を揺らした。まるで、教師になった理由を桃青が知っているように思えたからだ。
「探してるんだ。宝物を」
日日の口から溢れた答えは桃青を納得させた。
「そうですか」
桃青はそっと微笑んだ。
「宝物…きっと見つかりますよ」
優しく笑う桃青に伊月は、“KAIRI”が日日の宝物なのだと察した。桃青はその宝物を日日に見せてやりたいのだ。
ならば、オレがやることはただ一つ。
“KAIRI”の本を見つけ出すことだ。
「ありがとうな。俺はそろそろ他の見回りに行くから、君たちも早めに帰りなね」
「はい」
日日が図書室から出ていった後も、二人は懸命に本を探していた。
しばらくして、伊月が大きな声を上げた。
「見つけた!」
声がするところへ向かうと、埃まみれになっている伊月がいい笑顔で7冊の本を持っていた。表紙を確認すると、『KAIRI』と書かれてあった。
ようやく見つけた。
「ありがとう、伊月」
「ん?どういたしまして!」
桃青は笑った。心の底から笑っている桃青を見て、伊月も嬉しそうに笑った。
机の上に本を並べていく。確か、発行順で取り出すんだったな。
伊月と一緒に本を並べ替えると、ある真実が見えてくる。その真実に桃青は涙が出そうになったが、必死にこらえる。
「よし、次はこの本を探しやすい棚にしまうんだ」
「え、せっかく見つけたのにまたしまうのか?」
「うん。この本はある人だけが読むべきだからだ」
「そうか。桃青がそう言うなら」
桃青のいう場所に本をしまっていく伊月。
「全部しまったぞ」
「ありがとう。これで俺たちの仕事は終わりだ」
椅子に腰かけ、一息ついて桃青は決意の眼差しをした。
俺ができるのはここまでだ。後はあの二人次第だ。
「うん?」
日日が見回りから戻ると、机の上に置かれた一枚の手紙を目にした。名前は書かれていない。一体、誰がこの手紙を書いたのだろう。
手紙を読むと、驚くべき内容がそこには書かれてあった。
『噂の真実を教えます。明日の16時、旧校舎の図書室に来てください。あなたなら、何をすべきか分かっているはずです』
パソコンで印刷されたものなので、誰が買いたのかはわからなかった。ただ、この手紙を書き残した人物はきっと、日日の過去を知っているに違いない。
日日は椅子に腰かけ、目を閉じた。
自分がこの学校に赴任してきたのは運命だと思った。15年前に卒業した高校に教師として戻ってくるとは思わなかった。…いや、それは嘘だ。俺は何かに導かれるように、この学校に戻ってきたのだ。
「お前が呼んだのか?」
今は亡き友人を思い出す。
あいつは俺にとって、大事な人だった。あいつは俺と一緒に卒業すると思っていた。卒業後も隣にいると、信じて疑わなかった。でも…。
スマホの画面が光った。目を向けると、明日の予定が通知されていた。その通知内容を見て、「そうか」と呟いた。
「明日は命日だったな」
タイミングが良すぎる。本当に呼ばれたかのように思ってしまった。
「…そんなわけないか」
日日は微笑した後、手紙をそっと引き出しにしまったのだった。
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