1.呼ぶ

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1.呼ぶ

 銀世界という言葉がある。  それはこんな風景だったのか。  目の中までも漂白するような白が続く雪原の中、優奈は空を仰ぐ。夕方まで降り続いていた雪はすでに止み、ただ体の芯から凍えさせる冷気だけが足元から這い上がってくる。  真っ黒く閉ざされた空の中央に、そこだけぽっかりと光の穴が開いたような月が浮かぶ。眩しさすら感じるその光に向かい、優奈は手をかざす。  掌に乗せて掲げたのは、幸せの香りを放つかけら。  甘い甘いチョコレート。  月光に照らされたしんと閉ざされた世界で、優奈は届かない月に向かってチョコレートを捧げ続ける。
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