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 夜の校舎は静かで、肌寒い。人の気配がなく、足音が妙に響く。暗い廊下をスマホのライトで照らしながら、僕はある一室の前で足を止めた。  体育館に近いこの部屋は、バレー部の部室として使われている。僕はドアノブに手をかけ、回した。部員が毎日鍵をかけて帰っているはずの部室が、すんなり開いた。  まるで、僕が来ることが分かっていたようで、気味が悪い。  部室に入ると、部屋の奥から物音がした。 「おーい、おーい」  聞こえたのは、声変わりしきっていない、少年の声だ。  僕はライトで声がした方を照らす。ロッカーのひとつが、寒さに震えるみたいに揺れている。  壁際のロッカーは、僕の目の高さよりも少し低い。3段のロッカーが、一面に並んでいる。  その中の一番左端。一番上のロッカーが、ガタガタと震えていた。  幼児がぎりぎり入れる程度の小さなロッカーから、人の声が聞こえる。僕は息をのみ、ロッカーの扉を開いた。 「……山田、お前なにしてるんだ?」  そこにいたのは、体を丸めて震える少年だった。  彼は、1年A組の山田清太(やまだ きよた)だ。ぎゅうぎゅうに体を押し込めたロッカーの隙間から、彼は僕に視線を向けた。 「あなた、誰ですか?」  首を真横に曲げた彼が、おびえた両目を僕に向けた。 「僕は1年B組の戒田学(かいだ がく)。隣のクラスなんだけど、知らない? 同じバレー部にもいたんだけどな」 「そうでしたっけ?」 「まあ、3日だけだけど」  僕は顔を良く見せようと、ライトを顔の下から当てた。その顔を見て、山田は「わっ」と、か細い悲鳴を漏らす。  顔を良く見せようと思ったのだが、怖がらせてしまったようだ。
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