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「実は、夜中に部室のロッカーから、男子生徒のうめき声が聞こえるって、噂を聞いてさ。確かめに来たんだよ」
僕が言うと、山田は目を瞬かせ、丸めた体をよじった。
「えっ! うめき声? 自分、そんな噂になっているんですか? それじゃまるで、怪談話じゃないですか」
顔の横にあるひざの間から左手を出し、彼は「恥ずかしいな」と、頭を掻いた。
「恥ずかしがってる場合じゃないぞ、山田。お前はなんで、こんなところに入ってるんだ?」
訊くと、山田は頭を掻いていた手を止め、落ちくぼんだ目を伏せた。
「実は、ロッカーに入ったら、出られなくなってしまって」
消え入りそうな声で言うと、彼は狭いロッカーの中で、さらに背中を丸めた。
「自分で? そういえばお前、体が柔らかくて関節が外せるんだっけ?」
「そうなんですよ。だから、こうして狭いところによく入るんですが、ロッカーは狭すぎたみたいで。たまたま扉が壊れていたのか、開かなくなってしまいまして」
「閉じ込められてしまいました」と言って、山田は足に挟まった左手をパタパタ振った。
「じゃあ、出してやるよ。そら、いくぞ」
僕は華奢な彼の腕を掴み、強く引っ張った。
「やめてください!」
山田は身をよじらせ、引っ張り出されそうになった腕を体に寄せる。ロッカーの奥で身を縮める姿は、まるで巣穴に逃げ込んだ獣のようだった。
「どうしたんだよ、山田。せっかく、出してやろうとしたのに」
「まだ自分は、ロッカーから出たらだめなんです」
山田は痩せた手で顔を覆った。
「彼らに怒られてしまう」
そう言った彼は、ロッカーが揺れるほど体を震わせた。
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