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「お前、自分でロッカーに入ったって言ってなかったか?」
なにかに怯えるように、手のひらの隙間から外の様子をうかがう彼に、僕は訊いた。
「自分で入りましたよ。彼らに入れるかって聞かれたら、入らないといけないので」
「それって、いじめじゃん」
入れと直接言われていなくても、強制されたようなものだ。3日だけだが、バレー部にいた身としては、いじめられている同級生を見過ごせない。
僕は眉をひそめるが、山田は「はは」と、力なく笑った。
「いじめではありません。彼らにとっては遊びですから。自分は彼らがやめない限り、この遊びを続けなければいけないんです。僕が隠れて彼らの気がすんだら、もういいよって言われて出られるんです」
「ただのかくれんぼですよ」と、抑揚のない声で山田は続けた。ロッカーから出られなくなったのは本当のようだが、彼自身に出てくる意思がないらしい。
「だから、自分は外に出られないんです。扉が開かなくてパニックになってしまい、みなさんを驚かせてしまったようですが、安心してください。自分のことは、無視してくれてかまいません」
軽い口調とは反対に、山田は怯えるように体をすくませ、手のひらで顔を覆っていた。
「これはただのかくれんぼなので。せっかく僕なんかと遊んでくれているのに、勝手にやめでもしたら、怒られてしまう」
やせ細った指の間から、目を伏せた山田の顔がのぞいている。震える彼を見下ろし、僕は首を傾げた。
「なにをそこまで怖がってるのか分からないけどさ、そんなに怯えることはないだろ」
山田が、ぎょろりと目を動かし、僕を見上げた。
「だってお前、死んでんじゃん」
指さし僕が言うと、山田は「あっ」と、気づいたように声を漏らした。
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