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「山田、今日はいるかな?」
ロッカーをノックすると、金属と手の甲がぶつかる音が、部室に響いた。
「――いい加減、それやめろよ」
低く、苛立った声だった。僕は背後から肩を掴まれ、そのまま押し退けられた。
転びそうになりながら、僕は飯島を見上げる。彼は僕を気にかけることなく、乱暴にロッカーを開いた。
「はは、ちょっと本気にしただろ。悪ふざけにしては、たちが悪いな」
飯島は肩から力を抜き、安堵の声を漏らした。
ロッカーの扉が、軋んだ音を立てて揺れている。その中には、誰もいない。無機質な金属が、スマホの明かりに照らされ、ぬらりと光っているだけだ。
「飯島が怖くて、隠れてるのかも。お前、山田のこと、いじめてたんだろ?」
僕は飯島の背中に話しかけた。彼の肩が少し挙がったかと思うと、大きく深呼吸をしたのが分かった。
「いじめてなんかないさ、遊んでただけだって」
低く沈めた声が、夜の部室に響く。飯島はゆっくりと振り向き、ぬらりと腕を持ち上げると、僕を指さした。
「お前とも、遊んでやろうか?」
僕に向けていた手を伸ばし、飯島は僕の腕をつかんだ。そのまま、僕はロッカーに体を押し付けられた。硬い金属が背中にぶつかり、鈍い痛みが走る。
「嘘までついて、俺に嫌がらせまでするとは、よほどのおせっかい野郎みたいだな。俺は、あいつを殺してなんかない。殺してなんて、ないんだ」
呟きながら、飯島は僕の首に両手をかけた。震える指先が、首筋に食い込んでいく。
「嫌がらせも、いい加減にしろよ。この嘘つき野郎が。次はお前が、山田の代わりに遊んでくれよ」
首にかかる手を掴むが、体格差があるせいか、僕の力が弱いせいか、びくともしない。背中にあたるロッカーが、がたり、と揺れた気がした。
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