幸せを求めて

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幸せを求めて

 哲夫と房江は大阪の知り合いの家に到着した。しかし、知り合いの助言により、大阪は都市部のため追手に見つかりやすいので、人里離れた山村に逃げる事にした。知り合いからはいくらかの食料と水、金銭をもらい、教えてもらった山村へ、一目を避けて言われた山林に逃げたのである。  山についてからは、山村での生活を象徴するように、荒れて細い獣道を歩いていった。途中で迷う事もあり、食料や水も底をつき空腹の状態が続きながらも、ようやく、着の身着のままで、山村へたどり着いたのだった。  二人はまず、家を建られるような野原を探した。そして、哲夫は慣れない手つきで家を建てていく事から始めた。家といっても、哲夫は大工の経験はなかったので、家と呼べるものではなかった。雨や風を防ぐ程度のものだったのだ。  山村には僅かなら住民がいたので、手伝いを貰いながらの事であった。そして、次は畑を耕すことであった。これも、近くの住民から畑を譲ってもらったのだ。町に降りると見つかって自給しまう可能性があるため、自給自足の生活を与儀なくされた。  生活は貧しく、到底、置屋での生活とは程遠いくらいに辛いものであったが、そこには愛情の溢れた生活が待っていたのだった。  山村の冬は厳しかった。風雨も完全にはしのげなかったほどである。北風や雨は冷たかったが、哲夫は畳の中央に囲炉裏を作り、そこで二人は暖をとったのだ。  房江は遠い記憶が蘇った。それは幼き頃の青森の厳しい冬のことであった。父親や母親、兄妹らと暖を取ったことが懐かしく感じられた。房江と哲夫にはまだ、存在しないものがあった。二人はそれを何より欲しがっていたが、なかなか、恵まれなかったのだ。  その事を考えると、房江の頬をつたわるものがあった。自らのせいではないかと思ったのだ。すると、哲夫は房江を優しく抱きしめた。囲炉裏の火種が激しく音を立てた。そして二人は燃え上がる火種のように永遠になったのである。  春は優しく訪れ、木々や花が喜ぶように、房江と哲夫にも、ようやく、二人の結晶が芽生えた。  夏が来て、秋を迎え、二人の結晶はより耀きを増していった。秋の終わりの頃には結晶は形となって二人の前に現れた。  二人は愛しい結晶に幸子と名付けた。それは幸せに育ってほしいという願いからくるものであった。幸子という名前の通り房江は哲夫と共に小さな灯りに永遠なる幸せの祈りを込めた。
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