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 二人は今までの人生を振り返って話し合った。何がいけなかったのか、これからどうすべきなのかを毎日のように振り返ったが、途方に暮れる日々が続いた。  二人とも、自分たちを責めたのだ。駆け落ちしたことに天からの罰を受けたのではないか、それとも、自分たちの生活に問題があったのか、そして、振り返って、幸子を供養するために、四国遍路を考え実行したのだった。  しかし、振り返ってみて供養はしたとしても、二人は真の笑顔を取り戻す事ができなかった。どのような道を歩んでいけばいいのかを模索していた。  しかし、二人を救ったのは案外、身近なものであった。それは幸子へ編んだ手袋であった。幸子と過ごした思い出がよぎり、房江は涙で頬があふれた。そして、幸せだった頃を思い出したのだ。  二人で話し合った結果、幸子への想いと思い出を大事にして、懸命に生きていくことではないかという結論に至ったのだ。前向きではあるが、辛い選択肢であった。  思い出を大事にするということは、記憶が蘇ってくるということで、二人を苦しめたが、それが道だと思った。やはり、辛かった。二人は辛かったけれども、乗り越えるしかなかった。そして、小さな手袋を形見として、大事にすることにした。  時の流れは二人を優しくした。房江と哲夫にも少しずつ笑みが戻ってきた。
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