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そして、港から東北行きの船が到着していた。二人は船に乗り込もうとした時であった。置屋の者は港にくるだろうと先を読んでいたのだった。
房江と哲夫は捕まりそうになった。置屋の者は数名で待機していた。哲夫は必死で抵抗した。房江も捕らえられそうになった。捕らえられそうになりながらも、哲夫は必死でもがきながら、房江に訴えかけた。
「房江さん、いいから、先に船に乗ってください」
「でも……」
哲夫は追ってと争っている最中に必死で叫んだ。
「いやです、私もついていきます。待ってください」
「何を言っていますか。房江さんだけでも助かったください」
「いやです。哲夫さん」
「いいから、行ってください。私は必ず房江さんを迎えにいきますから、いつもの所で満月の夜に待っていてください。」
「約束ですよ。哲夫さん……」
「もちろんです。必ず行きますから。待っていてください」
そう言い切った瞬間、哲夫は捕らえられた。そして、両腕を後ろに縛られた。房江は既に船に乗っており、船は出発したのだ。
「哲夫さん、哲夫さん……」
「房江さん……」
これ以上に無い悲しい二人の声が響き渡った。
「房江さん、必ず行きます。いつものところで、いつもの時間で待っていてください。お願いします……」
船は次第に遠ざかっていった。哲夫が小さく見えていったのだった。しまいには豆粒のようになり、消えていった。
房江は泣き崩れた。一目をはばからず、泣き崩れた。あまりの大きな声に周囲の人達は驚き声をかけた。
「どうされましたか?大丈夫ですか」
「哲夫さん、哲夫さん……」
房江は船の上から必死で陸に向かって手を振り続けた。そして、待ち続ける事を決心した。
二人は遂に別れ離れになったのだった。それは悲しくもはじめからわかっていた事だったのかもしれない。
悲しい結末を迎えることになるのだろうか。
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