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その銃を撃つ、理由を教えて。
「狼は、お腹に石をつめこまれたことにも気づかずに、ぐうぐうと眠り続けています」
先生が教科書を読みながら話している。
私、沙美亞はそれを聞きながら一生懸命ノートを取っていた。まだ小学校一年生で、多くの漢字は書けない。でも読むことはできるし、知ることはできる。
いくらクラスで私だけが魔法を使えるからといって、きちんとメモを取ることを忘れてはいけないのだ。これは、尊敬する魔女のお母さんが教えてくれたことだった。
「やがて時間が経ち、夕方になったころ。狼はようやく目を覚ましました。そして異変に気付きます。子ヤギをたくさん食べて、お腹がいっぱいになったはずなのに、なんだか気分が良くないのです。お腹が重たくて、痛いような気がします。お腹の中がゴロゴロして、足がふらふらするのです」
今先生が読んでいるのは、おなじみのグリム童話の一つ。狼と七匹の子ヤギ、の話だ。幼い頃から何度も絵本で読んでもらったので、私もよく知っている。
ただ。
「あれ。どうしたんだろう?おかしいな?狼はそう思いつつも、喉がかわいたので川へと向かいました。川の水を飲もうとしたところで、足がもつれてどぼん!と川に落ちてしまいます。うわあ、助けてくれえ!と叫ぶ狼。しかし、森の仲間たちは、誰も狼を助けようとはしません。お腹に石がつまっていて、とても重たいので、狼の体はどんどん沈んで流されていきます」
この話が、私は昔からどうしても好きになれずにいる。
「狼が溺れて死んでしまうと、森の仲間たちは手を取り合って喜びました。やった、嫌われ者の狼がいなくなった、万歳!これでみんな、狼に怯えることなく幸せに暮らすことができるぞ!と。悪い狼がいなくなり、森には平和が戻りました。それからも七匹の子ヤギとお母さんは、仲間たちと一緒に、森で末永く幸せに暮らしたそうです。……おしまい!さあみんな、この物語を聞いて思ったことを言ってみてください!」
「はい!」
「はーい!」
生徒たちがそれぞれ派手に手を挙げて叫ぶ。私も黙って手を挙げた。きっと、先生が望んだ感想はこんなものじゃないだろう、そう思っていても言わずにはいられなかったことがあったからだ。
「はい、じゃあ……矢代さん」
先生が私の苗字を呼んだ。私はすくっと立ちあがると、先生の目をまっすぐ見つめて言ったのだった。
「どうして山羊のお母さんと森の動物たちは、狼を殺したんですか?追い出すだけでは駄目だったんですか?」
それが、私がこの物語を好きになれない理由。
「先生もお母さんやお父さんも、いつも“人を殺してはいけません”と言います。それなのにどうしてこのお話では、狼を殺した山羊たちはみんな、お巡りさんに捕まったり、悪いやつだと言われることがないんですか?」
「え……」
先生の顔が固まり、他の生徒たちがみんな凍り付いた。
それでも私は、自分が言った言葉が間違っているとは思えなかったのだ。
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