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人を殺してはいけない理由。それを、大人たちはよく子供達に言い聞かせる。命が大切だから、命は貴いものだから、みんな生まれてきた意味があるから――と。
それはいいのだ。人が生きている理由や、誰かを大切にしなければいけない理由はいくらあってもいいことである。それこそ、人それぞれその理由が違ってもなんら問題ないはあるまい。
でも、じゃあ“人を消す理由”はどうだろうか。文字通り、人の命をこの世から抹殺しても許される理由、である。
意外にも、これに答えられる人間は多くない気がしている。何故、子供達に読み聞かせる童話の中で、“人殺し”を肯定しているのに、みんな“人を殺してはいけない”というのか。それは矛盾しているのではなかろうか。それとも、童話の中で殺されるのは“動物”か“怪物”か“悪い奴”だから、死んでもいいということなのだろうか。
では、その“死んでもいい”は一体誰が決めるのだろう?
人間だって動物の一種だし、怪物にとって人間こそ悪魔かもしれないし、誰かにとっては正義の味方を名乗ってるやつこそ悪かもしれない。その基準は、意味は、価値は。一体誰が決めて、その権利を持つというのか。
小学一年生にしては妙にませた思考かもしれないけれど、たくさん本を読む私だからこそ、疑問は尽きないことなのだった。だから、現代の日本で数少ない“魔女の生き残り”であるお母さんにその話をしたのである。
「結局、先生は答えられなかった。他のみんなも。でも、私はどうしてもその理由が知りたいの。知らなきゃいけない気がするの!」
私の言葉に、お母さんは頭を撫でながら言ったのだった。
「沙美亞は賢くて、優しい子ね。……じゃあ、童話の登場人物のみんなに訊いてみたらどうかしら。絵本の中に入る魔法を使って」
「ほんと!?」
「ええそうよ。インタビューしてみて、それで何を感じたのか。お母さんに教えて頂戴ね」
「うん!」
私はお母さんの手を借りて、絵本の世界に入ってみることにしたのだった。
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