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その後も、私は多くの絵本の中に入って、登場人物たちに訊いて回ったのだった。
人が人を殺すことは悪い事だ。そう教わってきたし、私もそう思う。
だからこそ“それでも人を殺すことが正義となる”理由を、誰かにちゃんと教えてほしかった。ああそれならば仕方ない、そう思える言葉を誰かに言って欲しかったのだ。
ところが。
「僕が鬼どもを消した理由?」
私の問いに、桃太郎は困ったように言った。
「鬼どもが、村の人達を苦しめていたからさ。だから退治する必要があったんだ」
「それは、本当のことだったの?村人たちが一方的に言っていただけじゃないの?」
「おいおい、鬼はバケモノなんだぜ。なんでバケモノの言うことを、善良な村人たちの言葉より信じるんだい」
「なんで鬼はバケモノなの?怖い見た目をしていたら、殺されても仕方ないの?村の人達はどうして善良だってわかるの?」
「目を見ればわかるさ。僕がそう決めたんだ」
「なんで貴方にそれを決める権利があるの?悪い人だったら、裁判もしないで、追い出すとかでもなくて、すぐに殺していいことになるの?あなたは、お巡りさんや、政府の人に捕まらないの?」
最終的に、私は彼を怒らせてしまって、慌てて絵本の外に逃げ帰ることとなる。
「ええ、わたしが魔女のおばあさんを殺した理由?」
私の問いに、お菓子の家で有名なヘンゼルとグレーテル、のグレーテルは呆れたように言った。
「決まってるじゃない。魔女のおばあさんが、弟を食べようとしたからよ」
「でも、その前に二人は、おばあさんのお菓子の家を食べてしまったでしょ?怒らせても仕方ないことじゃないかな。誰だって、住んでる家を食べられたら怒るよ」
「お腹がすいてたんだから仕方ないでしょ。それでお前らを食べてやる!となるあいつの方が頭おかしいわ」
「でも。グレーテルのことは食べないで働かせてたんでしょう?だったら、お兄さんも働けば食べられないで許してもらったんじゃないかな。そもそも、ちゃんとおばあさんに謝ったの?」
「わたし達は悪くないから、謝る必要なんてないじゃない」
「お兄さんを守るためにおばあさんを殺したのだとしても、人を殺したことに違いはないと思う。あなたは、人を殺したことに納得しているの?おばあさんが本当にお兄さんを食べるつもりだったと確信しているの?人を殺してしまったことに、罪の意識はないの?」
またしても、私はグレーテルを怒らせてしまった。私はしょんぼりして、元の世界に戻ったのである。
グレーテルの、“弟を守るために消した”というのはわからないわけではない。でも、“おばあさんは目が悪くてよぼよぼだった”ならば、殺さなくても逃げる方法はあったような気がするのだ。実際、骨を差し出すだけで、おばあさんはヘンゼルの腕との違いを見分けることさえできなかったのだから。
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