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「で、そうだ。羽蘭ちゃん〜ついでにここの問題教えて〜!」
「んん?ああ、この問題なら……余白部分に計算式書いてもいいかな?」
「全然いいよ〜。有難う羽蘭ちゃん、やっぱり秀才だあ!」
教室の窓際でそんな会話をされると、僕が見たあの光景はやはり幻覚だったのだと勘違いしてしまいそうになる。
でも、人は所詮人だ。隠し事やら秘密やら抱えて生きていくのが人類。それを分かっているつもりだが、羽蘭さんを思うとどうしてもその考えは薄れてしまう。
「そう?私って秀才なの?」
「そりゃあそうでしょっ。まさに文武両道ってやつで、ザ・完璧な羽蘭ちゃんが羨ましいよ私は〜」
その時、羽蘭さんの右手が微かに震えた。まただ。これは羽蘭さんの裏の顔からのサインだ。
「それを他人に堂々と伝えられるなんて、有紗は相当頭イカれているよ」
羽蘭さんはニンマリと薄ら笑いを浮かべた。やべっ、それは言い過ぎ……と声を掛けたくなったが、必死に我慢した。
ここで僕が入り込むと、今度は僕自身がどうなることやら。羽蘭さんとの約束が最優先だ。
「え、羽蘭ちゃん?」
「ん?」
「えっ、え、だから今の何」
「…………冗談に決まっているじゃん」
「……やっぱりそうだよね〜!羽蘭ちゃん、普段ジョークなんて言わないからびっくりしちゃったって!なんかガチっぽかったし」
羽蘭さんの「友達」はまるでコントでもしているかのようなジェスチャーを取りながらケラケラ笑っている。
冗談だと誤魔化したのは、羽蘭さん自身の隠し事のためと、ほんの少しばかりの優しさだろう。その証拠に、羽蘭さんは「友達」を見守りながら僕に向けて口をパクパク動かした。多分こう言っている。
「げこうのとき、いつもどおり、しゅうごうね」
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