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この聖女様は本当に美しく、癒やしの魔法も浄化の魔法も使えるという至れり尽くせりの素晴らしい人物で、すぐ虜になった王子フェンリル。
聖女様には申し訳ないが、このアホの相手をしてもらうことにした。聖女様の力をもってしても、このランダリン王国があと何年もつかはわからない。それくらい統治能力のない王様に、王子たちだった。
やっとこの国を出れると思うとワクワクして、希望で満ち溢れてくる。家族には申し訳ないが、この国とはお別れだ。たいした未来はないし、ゼビー自身もこの国を守り抜きたいという責任感もない。どこか遠い国で得意の剣術に磨きをかけて騎士になりたい。
歴史の勉強も嫌いだし、礼儀作法も、お茶会も夜会も、ダンスレッスンも、刺繍の練習もみんな嫌い。国の改善提案を考えるのは好きだが、実行してくれる人はほぼいなかった。どんな功績を上げても、褒められるのはいつもアホなフェンリルのみ。
金勘定も好きだが、この国はいずれ破産してしまう。税金を闇雲に使うばかりな王族たちで、何かに投資する心もない。民に還元しようという気持ちもない。それではこの国の行く末も未来もあったものではない。与えなければ何も返ってこないのは当然なことなのだ。
「婚約破棄、謹んでお受けいたします」
にやけそうになるのを堪えながらも必死に頬の筋肉を固くした。ゼビーはもう自由の身だった。近衛騎士に後ろをうろうろされることもないし、第一王子フェンリルの秘書や侍従に泣きつかれて仕事をする必要もない。
さっさと遠い異国へと旅立つのだ。
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