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ほどなく家族に国を出る挨拶を済ませた。
「お父様、どうせ結婚もできないだろうし、遠い異国で愉快に暮らしますわ。今までお世話になりました」
「いやいや、遠くまで行かなくても国内で結婚相手を探すつもりはないか?公爵家だから引く手あまただぞ」
父親は案外楽観的だったが、アホではなかった。
「どうせ、辺境伯のおじさんか、おじいちゃんでしょ?そんなところに嫁ぐなら一生独身でかまわないわ。毎日剣術の稽古に明け暮れたいのよ」
「うむむ」
「お父様もお母様もこの国を出た方がいい。あのアホな兄弟たちの誰かが王様になるならこの国は滅びるでしょうから」
「生まれ育った国を出たくはないな。ほら、今なら聖女様もいるのだし」
ゼビーは首を横に振った。
「確かにそうなんだけど、たぶんそれだけじゃ追いつかないわ。プラス要素があってもマイナス要素が多ければ、マイナスが増えていく一方でしょう?」
父親はさびしそうに頷いた。
「聖女様だけでは難しいでしょうね、かわいそうだけど。少なくとも第一王子、第二王子、第三王子はみんなアホだもの。期待できそうなのは第一王女かな。とにかくこの国に留まる気なら、お父様はあの王女様を育てた方がいいわ。まだ原石だけど、素晴らしい皇女様になる。じゃ、さっさと異国に飛ぶわね。お母様にもよろしくね!」
「お母様に挨拶くらいしてから行きなさい!」
「何日も前に済んでるわよ〜」
「え、父さんより先にか?」
悲しそうに眉を垂れる父親を見て笑いながら、ゼビーは軽やかに手を振ると、さっさと部屋を後にして馬小屋へと向かった。
愛馬のピエールに跨ると、彼はヒヒンと機嫌よくいなないた。
最低限の荷物を馬に乗せてあるが、野宿はできないので毎日宿屋のある町にまで行かなくてはいけないのに、それだけでワクワクが止まらない。ゼビーはもう王子妃の仕事をこなす必要はないし、王子妃教育を受けなくていい。国民のことを考えなくてもいい。
これからは自分のことだけを考えて生きていくのだ。
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