12

1/1
350人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

12

有給扱いで会社に行かなくてよくなったことが幸いして、三社の消費者金融に連絡をして一括で返済する旨をつたえた。その総額は300万円に届くところだった。 舞にさんざん金を使われたため、すぐにその金を準備することができず両親に退職金で返すからと金を借りその原因である話をすると、電話を1mは離しても聞こえるんじゃないかとお思われるほどの大音量で舞の悪口を言い出したが、今はそんな話を聞いている場合ではない。 一日二日と伸びれば利息がつくから急いで金を用意してもらい、金を取りにいくついでに区役所で離婚届をもらい両親に承認欄を埋めてもらった。 消費者金融への支払いを済ませるとマンションにもどり舞に離婚届を書かせて不備があった場合にすぐに対応できるように二人で区役所に提出に行った。 ブツブツと文句を言っていたが警察という言葉をちらつかせるとしぶしぶついてきて無事に離婚が成立した。 結局、使い込まれた金は取り戻すことは出来ないし慰謝料なんて無理な話だが、こんなバカ女と別れることが出来たことはよかった。 もう少し遅かったら取り返しのつかない借金を背負うところだったかもしれない。 「さっさと出て行けよ」 「略奪婚だって近所にバレたから実家には帰ってくるなって言われて、行くところが無いからしばらくいさせてよ」 「ホストの所にでも行けばいいだろ」 「リュウにも借金あるから無理だし」 「そんなもん、俺には関係ないし使い込んだ金をチャラにしてやってるんだからな。勘違いするなよ。今すぐ出ていかないなら警察に突き出すぞ」 俺の言葉に嘘が無いと思ったのか、泣きながらスーツケースに荷物を詰め始める。 てか、リュウって誰だよと思ったがもう話を聞く気も起きなくなった。 「他にお前のものがあったら実家に送っておくから」 「なんでそんな酷いことができるの」 汚らしく泣いているがお前こそ泉に同じことをしたんだ。 泉はシャンと背筋を伸ばして出て行った。その姿を思い出してつくづく泉と舞の格の違いを思い知らされた。 舞を見送ることなく部屋を確認する。 置いていった服や小物、化粧水からシャンプーまで舞が使っていたものをダイニングのテーブルにのせていく。 どんな些細なものでものちのち面倒がないようにすべてを実家に送りつけるつもりだ。 最初から舞の両親とは折り合いが悪かった。 既婚者が若い子をたぶらかしてけしからんの一点張りで実に感じの悪い夫婦だった。 そもそも嘘つきの尻軽女に育てたのはお前らだろうって思ったが結婚生活を送るうえで波風を立てたくなくて我慢していたが、今度あのバカ女のことをしっかりと知らせてやろうと思った。 部屋を片付け、仕事も見つけないといけない。 忙しいが、一番難しいと思っていた案件が片付いてよかったと安堵する。 母さんに離婚が成立したことを伝えて、泉が戻ってきたときに余計なことを言わないように何度も何度も釘を刺した。 部屋の片づけをしつつネットで仕事を探しているがなかなか決まらない。 俺は口下手でリモート面接で上手く話すことが出来ず、なかなか決めることができなかった。 そうこうしているとデートの日になった。 カーシェアの車で待ち合わせのファミレスに行き、窓際の席に座ってホットコーヒーを注文した。 スマホで時間の確認をすると9時30分になるところだ。 あと30分が待ち遠しい。 転職サイトをチェックしているうちに時間になったのか「出口さん」という声に顔をあげると綺麗にオシャレをした泉が立っていた。 「何を飲む?」と声をかけようとする前に泉は手を挙げて近くにいたスタッフを呼ぶと「アイスティーを一つ」と注文をしていた。 俺に会うために苦しい生活の中、目一杯のオシャレをしてきてくれたことに涙が出そうになった。 今度こそ幸せにする。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!