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仕事中の私にくだらない言葉をかけてきた上に、どうやら店舗内もうろうろしていたらしく、わたしのストーカーじゃないかと囁かれるようになり、元夫だとは絶対に言いたく無かった。 帰りがけに声をかけてきた元夫は明らかに頬がコケて目元が黒く窪んでいるし、髪もツヤがなくパサついて見え、こんな所に来る前に診察を受けた方がいいように見えた。 何にしても元夫に私の人生を2度も狂わされるわけにもいかないし、わたしひとりで対処するのは怖かった。 潔さんにも元夫が来る話をしていたので、土曜日に潔さんのいるところで話をしようと決心して今この状況だ。 「泉は変わらず綺麗だね。今度は母さんが干渉しないように言うから安心して戻っておいで」 どういうこと?わけがわからない。 「再婚したんでしょ?」 「ああ、あの女、妊娠したとか嘘をついてたんだ。その後2人で検査をしたら不妊の原因は俺だった。あの時、泉の言うことを聞いていればあの女に騙されることはなかったのに、泉を追い出すような形になって後悔してるんだ。だから、やり直そう。あの女とは離婚して追い出したから」 そういえば、離婚してから元義母が電話を掛けてきた来たことがあった。 あの時、元夫の連絡先はすべてブロックをしたが元義母に関してはブロックをするのを忘れていてうっかり電話に出てしまった。 その時、妊娠は嘘だったとか、あれほど私をけなしていたのに最高の嫁だったとか気持ちのわることを言い出したから電話を切った後は急いで元義母の連絡先をブロックした。 私はため息を一つついてから 「相変わらず、自分の考えだけで自分の都合のいいように事実をねじまげているのね。妊娠したと嘘をついたのは彼女かもしれないけど、結婚をしている身で妊娠をする可能性がある事をしていたということでしょ。彼女だけが悪いわけじゃない」 ヘラヘラと気持ちの悪い薄ら笑いを浮かべて「でも」と私の言葉を遮ろうとした為、元夫の言葉にかぶせるように言葉を続けた。 「それにどうして私があなたとやり直してもいいと考えるわけ?私はあなたに心底呆れていたし、離婚した時、マンションをでてすぐにスキップをしたくらいせいせいしていた。私はあなたと離婚できて、あなたの家族と縁が切れて幸せなの」 元夫は窪んだ目を大きく開いたがその瞳には光が宿っていない。 「俺のために今日は着飾ってきたんじゃないのか?俺を今でも思ってくれているんじゃないのか?俺と別れて生活が辛いんじゃないのか?俺とヨリを戻そうと思ってくれているんじゃないのか?」 元夫は言葉を一つ吐くたびに大粒の涙がポタポタと落ちていく。 そこに娘を抱いた潔さんが私たちのテーブルに来て「もう、充分だろ」と言ってレシートを手に取ると、元夫は不思議そうな表情で潔さんと私の顔を交互に見た。 「私の夫です。今はとても幸せなのだからもう2度と私に話しかけないで」 「だって名札の名前が・・・」 不用意に名前を覚えられたり呼ばれたりすることを警戒していたのもあるが、結婚前から働いていたため名札には旧姓を書いていた。 「仕事は旧姓にしてるの」 私は立ち上がると潔さんと並んでレジに向う。 今までも、今も、これからも 一切、後は振り向かない。 「ひつじさんとちいさいパンダさんに会いに行くぞ」 潔さんが娘にそう話すと、娘は嬉しそうにひーさんぱんさんと言って笑っている。 あの日々があったからこそ、今の幸せがある。 スーパーがオープンしなければ、実家に戻っていなければ、離婚をしなければ、元夫と結婚していなければ、潔さんと再会することはなかった。 「泉どうした?」 「何?」 「涙」 元義母からの孫はまだか攻撃に疲れ切っていた日々から、娘が生まれた日を思い出して思わず涙がこぼれていた。 「幸せすぎて涙がでた」 「そうか、泉が幸せなら俺も幸せだ」 娘がマーマと言いながら小さな手で私の頬を撫でた。
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