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「またあの女は食事を作ってないの。あんな嘘つき不倫女なんて離婚でもなんでもしなさいよ。気が利かない、礼儀をしらない略奪女。泉さんの方がずっとよかった。近所でもいいお嫁さんだったのに若い女と不倫して別れたんだってとか言われるし」 そんなことを言いながら俺の前に、筑前煮や豚の生姜焼き、野菜サラダを並べていく。 「母さんだって、離婚の時は泉に酷い事を言ってただろ。そもそも、母さんが泉に孫孫言い過ぎたから俺たちの仲が悪くなったんだ」 母親の言い分に腹は立つが腹が減っているため、箸を止めずに出されたものを平らげていく。 「お前がちゃんと検査していればあんな性悪女に引っかかることなんてなかったし、そもそもお前が不倫なんてするのが悪いんでしょ」 母親の小言中、親父は決まってリビングでテレビに夢中だという体(てい)で聞こえないふりをする。 元々は母親の執着にも見える干渉も親父が止めてくれれば今頃は泉とのんびりと暮らしていたかもしれない。 「母さんが泉にアレコレ言い過ぎなんだよ。だから泉が妊娠しやすい日だから今日はお願いしますって夜のお願いとかしてきて、俺は種馬じゃ無いんだよ。だから家にいたくないし、種付けだけの行為なんてしたくなくなったんだよ」 種付け行為でしかない泉との夜の生活が嫌で舞と浮気をしていたとまでは言えなくて途中で話をやめた。 「泉さんもね、もっと上手く言えれば良かったのに。せっかく私が」 「せっかく私がって何だよ」 母親が3つの湯呑みにお茶を淹れると、一つはリビングにいる親父の所に持って行き、もう一つは俺の目の前に、最後の一つを持ち上げて啜るとふぅと一息ついた。 「今だから言うけど、毎日測った体温をラインで報告してもらって私が計算していたのよ。妊娠しやすい日に今日は必ず子作りするように言ってあげてたの。知らなかった?子作りは2人でするんだからちゃんと話をしてなかったあんたがやっぱり悪いわよ」 ちょっと待て。 あれって母さんが指示してたのか。 泉はそんな事言ってなかった・・・と言うより俺がまともに聞いてなかったんだ。 そんな事まで管理されていたなんて。 数年分の罪悪感が襲ってくる。 追い詰められた泉を気遣うでもなく不倫をして家からも追い出して。 「今日、泉に会った」 その一言で目の前にいる母親だけでなく親父までも湯呑みを置く音が湯呑みが割れたんじゃ無いかと思ほどの音を響かせた。 「あんた泉さんと会ってるの」 いつもなら気配を消して聞こえないふりをする親父も聞き耳を立てているのがわかる。 「会ったっていうか、見かけたというか。配置換えでまわったルートにあるスーパーでレジを打っていたんだよ」 「連絡が取れなくなって心配したのよ。元気だった?」 は?連絡? 「離婚してから連絡を取っていたのか?」 「あの嘘つき女を追い出して泉さんに戻ってきてもらおうと思ったのよ。だけど、2度目に電話をしたら繋がらなくなって、ラインも全然返事が来なかったのよね。だから、何かあったんじゃないかと心配をしてたのよ」 それってブロックされてるんじゃ無いのか?と思うがそれを言うとまた面倒なことになりそうだから黙っていた。 「そいういうところが、泉も嫌だったんだろ。とにかくもう余計なことはしないでくれ」 目の前でお茶を飲む母親は明らかに不機嫌になっていた。 まさか子作りまで母親が首を突っ込んでいるなんて今の今まで知らなかったし離婚した後も連絡をしていたなんて思いもしなかった。 泉が戻ってきたら次は気をつけてあげよう。
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