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Ⅰ
「ええい、まだか!」
とある土曜日、俺は緊張しながら、スマホが震えるのを待っていた。先日付き合い始めたばかりの隣のクラスの彼女である澤野葉流音からの電話がまだ来なかったのだ。
「19時に電話くれるって言ってたはずなんだけどなぁ……」
すでに時刻は19時半、30分も遅れているということは、もう忘れてしまっているのだろうか。俺はスマホをベッドに投げた。
「そうだよな。今日はきっともう連絡は来ないな。これ以上スマホを眺めていても無駄だよな」
うんうん、と大きく頷きながら自分を納得させる。納得させてから30秒ほどしてから、俺は立ち上がり、ベッドに投げたスマホを見つめる。
「……でも、そろそろ電話が来るかもしれないしな」
そう思って、ベッドの上のスマホを見つめてみたけれど、やっぱりスマホはジッとしたままで、震える気配なんて一向になかった。
「もういいや、やっぱり忘れてるよな。うん、仕方がないなよな」
そんなことを一人で言って、自分を納得させて、スマホから離れて勉強机に向かってノートを開いてみた。
「……やっぱりもうすぐ電話してもらえる気がする」
俺はまたベッドの上のスマホに近づいた。ジッと見つめたけれど、やはり何の反応もない。
「まあ、そうよな……。忘れてるな、これは……」
また離れる。
「いや、でもそろそろ思い出すかも!」
また近づく。
「まあ、別にまた月曜に学校で会えるし」
また離れる。
「いや、休みの日の夜に話せるからこそ、意味があるんだ!」
また近づく。
「ま、良いんだよ別に……」
また離れて、近づいて、離れて、近づいて、離れて近づいて離れて近づいて離れて近づいて……」
そんな意味のわからない行為を15分ほど続けていると、ついにスマホが震え出したのだ。
「葉流音だ!」
俺はビーチフラッグの旗を取るときのように、飛び込むみたいにベッドの上のスマホを取る。
「痛ってえ!」
膝を打ってしまい、のたうち回りたい気分のところを必死に我慢する。
そして、スマホの画面を見るのと同時に通話ボタンを押して、耳につけたときに気づいた。
「待て、いまディスプレイに映ってた名前、葉流音じゃなかったぞ!」
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