雪の日の思い出

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真っ暗な夜空から降ってくる雪が街を白く染め上げている。 寒さで凍える指先に息を吹きかけ、少しでも暖を取ろうと試みたがあまり効果がなかった。 「はぁ……さむい」 手袋をしていない指は赤く染り、冷たい風に体温を奪われ身体が震えた。 人気のない公園のベンチに腰掛けると、視線の先に誰が作ったか分からない雪だるまが寂しげに佇んでいた。 ふと、懐かしい記憶が蘇る。 幼い頃、手を引かれて歩いた帰り道。 小さな手で一生懸命雪玉を丸め、大きくして重ねた。 「お母さん!見て、ゆきだるま!」 「ふふ、上手ね」 僕の頭を優しく撫でてくれる母の手。見上げると、母は優しい笑みを浮かべていた。 あの頃は幸せだった… 家に帰れば暖かい食事も母も待っていたから。 幼かった僕は、そんな日々がずっと続くと思っていた。 静かに雪が降り続ける中、母に手を引かれ連れられた場所は知らない建物の前だった。 「おかあさん?」 「かける。また冬になって雪が降ったら迎えに来るから待っててね」 母の様子はいつもと違っているように見えた。 僕はそれがとても不安で、泣きそうになりながら母の顔を見上げた。 「なんで……?やだよぉ……」 母はそんな僕を抱きしめ、ごめんね、ごめんね、と言いながら頭を撫でるだけで何も言わずに去っていった。 春を迎え 夏が駆け抜け 秋が過ぎ去り そして、冬が訪れた。 あの日を最後に母と会うことは一度もなかった。 僕は捨てられたんだ。 その事実を理解してしまった瞬間、胸が締め付けられるように苦しくて悲しくて 母が憎かったのに 数年の時が流れた今でも母の迎えを待っている自分がいる。 「もう、冬になって雪も降ってるよ…」 呟いた白い息が黒闇に吸い込まれる 「さむっ。⋯⋯ずっと待ってるのに」 悴んだ手を吐息で温める。 「全然あったかくならないや。⋯⋯迎えに来るって言ったのに…」 視界が滲んでいく。涙の雫が頰を伝って零れ落ちた。 「寂しい。⋯⋯一人ぼっちにしないでよ」 涙が止まらない。 街灯の明かりが頼りなく灯り 時折通り過ぎる自動車の音がやけに大きく響き 惨めな自分を嘲笑うかのように雪が舞い落ちる美しい雪景色さえも今は恨めしい。 雪の日はいつも僕を悲しくさせ孤独感を引き立たせるだけだった。
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