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「だから先生、僕は早く帰らなくちゃならないんです。彼女が寂しがってる。傷? 腸に達してる? 大丈夫ですこんなの。別に普通にしゃべってるし。
いるんですよ彼女が。部屋の隅でうずくまって泣いているんです。
ええそうですよ、包丁を刺してきたのは彼女です。
気の迷いなんです映画が見たいだなんて。
たいした映画でもない。恋愛映画だなんて。
恋愛なんて僕としてるのに、なぜ他人のことが気になるんでしょう、どうだっていいじゃないですか。僕は彼女の顔が見られればそれでいい。
彼女だってそうなんです。ただの気の迷いです。
僕のことを刺したのだって、
気の迷いなんですよ。
だからちゃんと刺した後も帰ってきたんです。
やっぱり急に刺されたらびっくりするじゃないですか。
怒鳴ったのが悪かったんですね。
彼女、動転してベランダから飛び降りてしまった。
9階ですからね。落ちたらひとたまりもない。
でも僕にはちゃんと見えたんです。
彼女の魂が体から抜け出していくのが。
だから呼び止めたんですよ。
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