言えない

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「かんぱーい!」 「おめでとー!」  運ばれてきた生ビールと、ドリンクバーのレモンスカッシュで乾杯する。酸味と一緒に、喉の奥につかえていたものが全部流れていったような気がした。 「彼氏、帰って来るって?」 「うん。今週末にでも飛んでくるって」 「いいねぇ、愛が深いねえ。あんたさ、いい加減彼氏紹介しなさいよ。何回も言ってるのに、あたしまだ一回も会わせて貰えてないんだからね」 「ゴメンゴメン。今度は絶対会わせるから」 「そのセリフ、何回聞いた事か」  歩美は鼻で笑った。 「ところでさぁ、まだ病院には行ってないんでしょ? 大体何か月ぐらいとかわかるの?」 「できたのは多分、二ヵ月くらい前かなぁ」 「あぁ……って事はちょうど前に飲み会した頃か。あの時にはもうお腹の中にいたかもしれないって事? 里穂、あの時結構飲んでたけど大丈夫かな?」 「ううん、大丈夫。あの時はいなかったと思う。出来たとしたら、その後かな」 「やっぱり大体わかるもん?」 「うん。多分あの時かなぁ、みたいな」 「なんか生々しいなぁ」 「何よ、聞いたのそっちじゃない」  私はふと大事な事を思い出して、歩美に聞いた。 「そういえばさ、あの飲み会の時にいた圭介君だっけ? あの子って血液型何型?」 「圭介君? あー、帰りに里穂の事送ってくれた子? 血液型なんて……あ、でもあの子、料理取り分けてくれたりマメだったじゃない? 里穂の事もタクシーで送ってくれるって言うし。気が利くねって褒めたら、俺A型なんスよーとか言ってた気がする。それがどうかした?」 「ううん、別に。歩美と気が合いそうだなって思ったから。でもA型じゃ駄目か」 「あたしB型だしね。A型は天敵よ。そもそもないでしょあんな優男。あんたって相変わらず見る目ないなぁ」  歩美は苦虫でも噛みつぶしたような顔で、ビールのグラスを煽った。  圭介君もA型、か。  私は心の中でほっと胸を撫で下ろし、そっとお腹に手を当てる。  それなら大丈夫。礼司もA型だ。  心の声に反応したように、お腹の中がピクリと震えたような気がした。 <了>
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