隣にいるのは

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「……おっそい」  下校時間になってダッシュで帰ってきた。  といっても、家にじゃない。湊人の家の前だ。  雪の日に比べれば気温は上がっているらしいけど、それでも夕方は空気が冷たくて耳が痛い。  ジッとしていると足から冷えてくるから、足踏みが止まらない。  はぁーっと大きく息を吐くのは、寒さを紛らわしているのかな。  それとも緊張をほぐそうとしているのかな。  湊人が早くきてほしい。でも、こないで欲しい。  伝えたいことがある。でも、それを口にするのが怖い。  あぁ……逃げたい。いっそ逃げてしまおうか。  もうジッとしていられないから、わけもなくグルグルと回ってしまう。 「莉子?」 「っひゃいっ!」  あれだけ待っていたのに、いざ湊人が姿を現したらびっくりして、変な声が出ちゃった。 「なに? どうした?」 「あ、その……」  普段と変わらない湊人に、なんだか緊張が止まらない。  なかなか言葉が出ない私に、湊人が不思議そうに首をかしげる。  ほんの数日前。湊人は私を待っていてくれた。  はっきりと『好き』って言ってくれた。  その言葉を伝えるのが、こんなに、こんなに緊張することだったなんて。  たった二文字なのに。その言葉が出てこない。 「莉子? 悪い。待ってたなんて知らなかったから。冷えたか?」  優しい言葉に大きく首を横に振る。 「でも、ふるえてる。寒かっただろう? 一度家に帰って待っていればよかったのに」  ダメだよ。一度家に帰ったら勇気なんてしぼんでしまう。  それにこのふるえは寒さだけじゃない。  伝えたいことがあるの。  あぁ、なんでこんなに緊張するの?  湊人なのに。でも、湊人だからだ。  ずっと隣にいた湊人に、はじめて伝えたいことがある。  勇気をふりしぼり、ポケットの中を強くぎゅっと握りしめた。    
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