隣にいるのは

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「……どこに片付けたっけなぁ」  帰宅して、引き出しの中をあさってみる。  一時期はまっていたから、絶対にいっぱい残っているはずなんだ。  お母さんに怒られたもん。『そんなに買っても使い切らないでしょ!』って。でも百円ショップで買ったんだし、お小遣い内だからいいじゃんって言い返したっけ。 「あった!」  クリアポーチの中に入れられた色とりどりの刺繍糸。ミサンガ作るのに集めていたやつ。  一応赤系、青系と分けてはいたんだけど、結構ぐちゃぐちゃになっている。  青系の糸が入ったポーチ。水色が好きだから青系の方が糸が多い。  前、湊人にあげたやつは、青、緑、黄色だった。  確かブラジルカラーだから、サッカーやってる湊人にちょうどいいと思って渡したことを思いだした。  それを湊人はランドセルのポケットに入れて大事にしてくれていたんだけど、ファスナーに絡まっていたから、私が昨日それを切った。 『……また、同じミサンガ、作ってあげる』    そう約束した。  だったら同じブラジルカラーで作ればいい。  そう思うけれども……。 『のんびりしてたらとられちゃうよっ』 『今までみたいに一緒にいること、なくなるんだよ。考えたこと、ある?』  桃ちゃんの言葉が、ずっとグルグルしている。  今までみたいにいられなくなる。   『とられる』なんて考えたことなかった。  そばにいるのが当たり前すぎて。  でも、確かにが出来てしまえば、私は隣にいられなくなるんだろう。  湊人の隣を歩くことになるかもしれない。  その、誰かを想像すると、なんだかモヤモヤする。  これが『好き』ってことなの? 好きって、もっとキラキラして楽しいものじゃないの? 「あー、もうっ! わっかんないよぉーっ!」  なんでみんな自分の気持ちがわかるの?  糸が混ざり合ったクリアポーチ。白、薄いピンクに黄色、水色に紫。  ぐちゃぐちゃに混ざった様子は今の私みたい。いっそ心の色が見えればいいのにね。そうしたら、自分の気持ちがわかるかもしれないのに。  同じもの作るといいながら、ブラジルカラーを手にする気にはなれなかった。
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