雪の中

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 ゴキブリのオバケは弟と一緒にみた。ゴキブリではなく、ゴキブリのオバケ。  帰省の際、僕達が寝泊まりしていたのは元病室である。  祖父母の家は広く、暗く、水道管の破裂防止のため絶えず水音がする。当然ドバドバとは出さない、細く微かな水音が、暗い廊下にシトシトと流れているのだ。ぶっちゃけ怖い。二階で寝泊まりしていたが、廊下が怖すぎて一階のトイレを使っていた。一階のトイレは灯りが点けっぱなし。多分祖父母の転倒防止のため。いや僕達があんまりにも怯えていたからかもしれないが。  そんな訳で、小学生も高学年にもなって、僕達兄弟は二人でトイレに行っていた。しょうがない、超怖いんだもん。  で、件のオバケは一階のトイレで床を這っていた。スリッパで潰すが、寒くて怖いので後処理はしないでそのまま放置。バカな小学生二人の事である、大目に見て欲しい。  翌朝になり、寒い寒い言いながら一階に降りる。トイレの入り口にはスリッパがきちんと並べられていた。  朝食の時、叱られなかったのが不思議で、ゴキブリが出た事を自分達から言う。 「……ゴキブリ?」  どうやら寒すぎてゴキブリは生きられないそうだ。今は知らないが、すくなくとも三十年くらい前には、田舎はゴキブリの住めない土地だった。  だからオバケ。掃除した人もなく、ゴキブリの死骸はこつ然と消えた。  もしかしたら僕達の車に乗っていたのかもしれない。オバケじゃなかったのなら多分、片付けたのは祖父だろう。他の大人なら叱る。孫のために黙っていたのだろうか、だとしたら申し訳ないな。
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