雪の中

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 とにかく田舎の食べ物は何か異様に美味かった。  イナゴは佃煮にする際、お腹を空にするためでかめのポリバケツの中で何日か置いておく。親類のおっちゃんが蓋を開けてみせてくれた。イナゴがイナゴに重なる地獄絵図。ヴィーガンも裸足で逃げ出すような光景である。  どじょうも大体おんなじ、田んぼでアホみたいに捕れるのを無闇にポリバケツに放り込み、水だけ変えながら泥を吐かせる。どじょうはいい。無策で蓋を開けても逃げだしたりしないもの。偶に脱出を試みるようなタフガイもいたが、跳ねて出れても玄関口。雑に摘んで何事も無かったようにポリバケツに戻す。  そうして夕飯時、さっき見たヤツラが皿の上にのっかってる。のったからには口に放り込まねばならない。美味かろうが不味かろうが咀嚼して飲み下す。僕はとにかく何でも食べた。いや、どじょうもイナゴも好きですよ。出されれば喜んで食べますとも。  繰り返すが、田舎で食べた数々はどれも本当に美味しかった。  で、そんな食べ物達を差し置いて、いのいちばんにあげる正月料理は『おひら』。  本当に、味の記憶というのは不思議なものだと思う。  後に母から聞いたが、田舎の正月にも普通におせちは出ていたらしい。黒豆、伊達巻、昆布巻。正直全く記憶にない。正月料理と聞いて、はっきり思い浮かぶのは何故か『おひら』。  実は旨かったのだろうか。
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