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満たされない
黒い悪魔と白い悪魔。白い悪魔はこう言いました、「キミが悪い」と。
*
食べても、食べても、足りない。
何かに取り憑かれたかのように、口に食べ物を詰め込んでいっても、足りない。
家の中にある食糧を食べつくしても、空腹感がなくならない。
ふと我に返った時、食糧を全部食べてしまったことへの罪悪感に苛まれ、急いでトイレに駆け込み、口に指を入れては吐き気を促し、何度もお腹を叩いて、食べ物を戻した。
もういらない。食べたくないのに。身体が言うことを聞いてくれない。
貪るように食べては吐いてを繰り返す。
「お腹が空いた」
*
ある寒い日のこと、空腹の気を紛らわそうと外へ出た。
村では、昨夜、人に似た獣が出た、と噂が回っていた。
噂話によると、その家には、たくさんの血溜まりがあり、その家に住んでいる住人が食べられた形跡があったそうだ。
その話を聞いたボクは、強い恐怖と不安に襲われた。
怖いですね、と話に相槌を打ちながら、冷汗が止まらなかった。
そして、その日の夜、恐ろしい夢を見た。
涎を垂らし、寝ている人間に牙を立て、本能のままに食い尽くしていき、美味いと笑みを浮かべながら、空腹が満たされていく感覚がとてつもなく堪らなかった。
あの夢が現実に起きたことではないかと思う程に、人間の感触や味、血の匂いが現実味を帯びていて、自分が獣なんじゃないかと怖くなった。
だが、目が覚めてすぐに、お腹が空いている自分に、自分は獣ではないと安堵した。
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