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試練突破
あれから二週間。スコタディはギルドで紅茶を楽しみながら何時ものようにダンジョンを弄っていた。だが、どうしても気が散って仕方がない。何故なら目の前に魔王アンノーンがいるからだ
「アハハ! アスィミ! やめてって」
おかしい
アスィミはクールな犬で人に懐くことはないはす。スコタディとて甘えられたことはあるが舐められるなど滅多にない。なのに、目の前には楽しそうにアンノーンと遊びじゃれあうアスィミがいたのだ
「し、嫉妬ではありませんからね!」
頬をこれでもかと言うぐらいに膨らませて拗ねるスコタディ。滅茶苦茶悔しくていじけていた
「と言うか、ここに居ていいんですか?」
「うん? 別にいいよ。文句言ってきたらぶっ飛ばすから」
そう言って三日目に連れて帰ろうとしたルシファーを吹き飛ばしていたなと思い返していた。胴体に風穴を開けて帰っていったルシファーを見てどうやったら死ぬんだろうと思ったぐらいだ
「ミロの様子を見なくていいんですか?」
「うん。どうせ無理だし」
「えっ?」
「違う! 出来ないって意味じゃないよ? 短時間でこなすのが無理って意味。どいつもこいつも癖が強くてさ。ルシファーとかは認めたみたいだし、ベルなら手か足を喰わせれば認めるでしょうけど………他はね?」
「そんなに難しいんですか?」
「難しいと言うか………私を好きすぎだろってことかな? 皆、私を慕ってくれててさ。全員がお気に入りになりたいと普段から競ってる。そんな中、ぽっと出てきた訳のわからない女が私に鍛えて貰えるとなると………言いたいことわかるでしょ?」
「そうですね。色欲のアスモさんとか怒ってそうですし」
「あれも頭が固いんだって。意外と頑固だからめんどいの」
これは先が長そうだと思っていた。だが、スコタディとアンノーンはミロと言う人間を侮っていた。何故ならこの二日後、全員に認められてアンノーンの前に現れたからだ
「………へぇ。やるじゃん」
「へへっ。疲れたぁ」
倒れるように眠るミロは動かなくなってしまった。アバターが眠ると言うことは現実世界でも寝ていることを指す。これが10分経過すると強制的にログアウトになってしまうのでスコタディは優しく抱き抱えベッドへと連れていった
「起きたら伝えて。お疲れ様って」
「はい」
「また明日遊びに来るからここにいてね」
そう言い残して去っていくアンノーン。何処までも爽やかで優しく親しみやすい魔王だ
常に明るく対等に語り合ってくれるのがわかる。心の隙間に入るのが上手でこの人なら安心出来てしまう
スコタディは羨ましく思いつつも何処かミロと似ているなと思ったのだった
「で? 試練はどうでしたか?」
「マジ最悪。特に色欲。あいつ私らが気に入らないからって無茶苦茶だし! 胸で男を百人逝かせろとか、口を使って千人逝かせろとか、最後は手で一万人逝かせろだってさ! 変態でアホだよあいつ」
「どういう意味ですの?」
「あっそか。スコタディはこの手の話しないもんね? あのね………ゴニョゴニョ」
スコタディは言葉の意味を理解出来なかった。故に耳打ちされるまで意味を飲み込めなかったのだ。そして、耳打ちされて教えられた内容を聞き顔がりんごのように真っ赤になり信じられないといった表情を浮かべたのだ
「だ、だ、男性のあ、あれを………ですか?」
「そうだよ。保健体育で習ったでしょ?」
「な、習いましたけど………む、胸で挟んで? く、口を使って? そ、そんなのひ、卑猥えすぅ!!」
いや、卑猥だからこそ興奮するんだってとは言わないミロ。男とはそう言う生き物なのだと言ってやりたいが口を慎む。一応、横の部屋にはニコがいる。彼女にはまだ早い話なのだから
「み、ミロはし、したのですか? でも、次々と課題を出されたってことはしちゃったのですね? 汚れたんですね? ひ、卑猥えすぅ!!」
顔を真っ赤にして必死に訴えるスコタディ。ミロが男性にそんなことをしたのかと思うと信じられなかった。だが、現実的にしているのだから泣きたくなってしまう。親友は知らないところで妖艶な女だったのかと思うとショックでしかないのだ
「いや、してないから」
そんなスコタディを見てバッサリ言い捨てるミロ。こいつは何を言ってるんだと表情が物語っていて、とことん冷たい目でスコタディを見ていた
「えっ? で、でもぉ? 試練を乗り越えたのですよね?」
「胸で逝かせろは胸にトゲトゲアーマー着けて体当たりで殺してきた。口は噛み殺してきた。手では殴り殺してきた。それだけ」
何でわからないかな? と、呆れながらも面白い親友だと改めて思う。こう言う話題は周囲も避けていたし本人も積極的に知ろうとしない。男性に興味がないわけではないのだが奥手で恥ずかしがり屋なだけに男性とそんな関係になることがないのだ
「………」
確かに間違っていない。逝かせているのだから正解だろう。これは言葉の捉え方だ。だからこそ次から次へと課題が増えるわけだと納得した
だからこそ、呆れてしまって遂には笑ってしまった
「それに最初さ、あいつは私に貧相な胸で頑張れって言ってきたんだよ? えぇえぇ貧相な胸を使って逝かせてやったよ! 本当に腹立つわぁ!!」
「………八つ当たりでもあったんですね」
「文句ある?」
「いえ。ミロらしいなと安心しました」
それから、スコタディは全ての試練の内容を聞いた
傲慢のルシファーの試練はなくていいと言われたが試練を出せと言って無理矢理出させたのがルシファーに触れること。これがまた難しく半日でクリア
暴食のベルゼブブは簡単で腕一本喰わせたらクリア出来た。これはアンノーンの言った通りで単純で助かったらしい
色欲は言うまでもなく一番の面倒臭い作業だ。何を言っても数が多い。ひたすらプレイヤーを殺し尽くしたのだとか
嫉妬は単純。アンノーンに気に入られる方法を考えろと言われたので手作りのクッキーを作ったのだとか。アンノーンに出会ったところに渡したところ大喜びしてくれたのでこれも簡単にクリア
怠惰は何もしたくないと試練さえ与えるのが面倒と言うばかり。そもそも会うのが困難で出会うところから試練だったらしい。何度もしつこくアタックしてようやく接触。何処までも面倒くさがりな怠惰の要求はだらけたいだったのでトレインにお願いして究極の怠惰ベッドを作って貰いプレゼントして無事クリア
「残りは………強欲と憤怒ですか?」
「そっ。強欲の試練は要求したものを手に入れてこい。憤怒は指定した魔物を倒してこい。どっちも苦労したよ。何度も死んでやっとクリアしたんだから」
強欲の試練は風狼のグロテリアの魔核と呼ばれるものでグロテリアの額に埋まっている
倒さなければ手に入らず何度もチャレンジして倒したのだ
憤怒は焔岩の魔人と呼ばれるゴーレム。触れられない近寄れない。まさに最悪の相手。必死にDPを貯めて攻撃アイテムを大量購入し投げて殺したのだと説明した
「よく倒せましたね」
「三日かかったよ。倒すのにね? アイテム購入に五日! 本当に寝ずに三徹した時は笑いながら魔物を倒したなぁ。何か面白くなってきてさ? 何が面白いのかわかんないけど笑えるんだよね」
「………二度とやらないでくださいね?」
「うん。私もヤバいと思うからしない」
そんなミロはスコタディと遅くまでお喋りして楽しく過ごす。平和だったのは今日までだったのだから
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