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 朝夕の冷え込みが厳しくなるころ、街のあちこちがクリスマスに彩られる。  緑の樅木(もみのき)を模したツリーは、一説には永遠の命を象徴した神聖な木と言われている。  キラキラとした金属質の球体や星、雪を被った家などを飾ると、緑とのコントラストで金銀と赤、そして白い雪が映える。  LEDのイルミネーションが彩りを添え、気分を高めてくれる。  子どもたちは、ツリーに駆け寄り写真を撮り、今年のプレゼントの話に花を咲かせていた。  家族連れがデパートの前に来て、ショーウインドウのトナカイとツリーに目を留めた。 「もう、こんな季節ね」 「寒くなるわけだな」  誰もが目を奪われる、華やかなクリスマス。  そして、クリスマスソングが気分を高めてくれる。  そんな、笑顔と話し声に満たされた、輝く街を独りで歩く子どもがいた。  行き交う人が途絶えた瞬間を狙っていたのか、勢いよく入口に近づいてきた。 「綺麗だなあ」  少年は、大人の背丈の半分ほどしかなかったが、精一杯伸びをしてショーウインドウを覗き込む。  目を輝かせ、チョロチョロと走り回ってはしゃいでいた。 「あら、かわいい(ぼっ)ちゃん。  パパとママは」  若い娘が身をかがめて声をかけた。  グレイの瞳に、輝く金髪をなびかせてスラリと背が高い。 「うわあ、サンタさんだ」  彼女は赤いサンタスーツを着こなしていた。  胸元とスカートに白いファーがあしらわれている。  均整の取れた、しなやかな身体にフィットして、道行く人がこちらを見ていくのがわかった。 「お姉さんはね、サンタガールよ」  少年の顔がパッと明るくなった。 「そうだね、お姉さんだもんね」  6歳とは思えないほど、しっかりとした受け答えだった。  痩せた身体に擦り切れた服。  エルマは違和感と同時に、哀れみを感じた。 「もしかして、独りで来たのかな。  小さいのに、偉いね」 「うん。  僕のパパとママは、死んじゃったんだよ」  明るく答えた。  あまりのことに、エルマは両手で口を押え、目を見開いた。 「ごめんなさい。  お姉さん、知らなくって。  プレゼントをあげるね。  一緒にきて」  少年の手を取り、デパートの中へと消えていった。
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