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 アパートを改造した児童養護施設「アニティホーム」で暮らす折島 祐樹(おりしま ゆうき)は、落ち着きがあってよく笑う子どもである。  同室の4人と一緒に、リビングへ食事を摂りに行くところだった。 「さあ、お腹が空いたでしょう」  職員のおばさんが、ご飯をよそってくれた。  子どもたちは、ワイワイ騒ぎながら食卓に運んで行く。  白くて大きな長机を部屋の中央に設え、カウンターキッチンから自分のランチョンマットに乗せていくのである。  ご飯と味噌汁、そして焼き魚。  贅沢(ぜいたく)はできないが、生きていくために最低限必要な物は与えられていた。  スマートフォンも、持っているからゲームもできるし調べ物もできる。  一日のスケジュールは、きちんと決められて、たくさんの決まりごとがある。  これも集団生活のために必要なことだった。  親に暴力を振るわれたり、捨てられたりした子どももいる。  そんな子どもたちにとっては、このホームが安息を与えた。 「ゆうちゃん、マジカルバナナしよう」 「うん、ご飯食べたらね」  小さい幼児はおばさんにだっこをせがんで、足元にまとわりつく。  ベビーチェアで、(よだれ)かけをして手づかみ食いする子もいるし、ミルクを飲む赤ん坊もいる。  みんな兄弟のように、助け合いながら暮らしていた。  同室のかんちゃんが、魚を半分皿によこした。 「僕、食べたくないんだ。  半分食べてよ」  痩せた身体で、いつも青い顔をしている。  かんちゃんは親から暴力を受けていた。  食事もろくに与えられず、衰弱していたところを保護されて来たのだ。  子どもは親を選べない。  育児放棄された子どもも少なくない。  祐樹の心には、小さな火が灯っていた。  将来は、悲しい思いをする子どもを救う仕事がしたい。  無邪気に笑う仲間たちを見て思うのだった。
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