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 フィンランドのサンタ村でも、本格的な冷え込みが始まった。  こちらはマイナス数十℃になるほどである。  木々には雪が貼り付き、風花が舞う。  コートのような起毛のサンタスーツは、見た目以上に暖かい。  今年も若いサンタたちがプレゼントを用意するため忙しく出入りしていた。 「パクスロ、今年はどこへ行くんだ」  白いひげを蓄えた、先輩サンタが尋ねた。 「日本です。  これから下見を兼ねて、ファンサービスに行ってきますよ」 「そうか、ご苦労さんだな。  確か、新入りを連れて行くんだっけ」 「そうです。  ラウティオさんのとこの、エルマちゃんを連れて行けと言われてます」  女のサンタクロースも年々増えてきた。  サンタガールを地でいくエルマは、どこへ行っても注目の的である。  彼女は(そり)にトナカイを(つな)いているところだった。  オンラインでゲーム機やぬいぐるみを予約して、伝票をまとめていたパクスロは、真っ赤なファイルに閉じ込んで書類棚に差し込んだ。  外は真っ白な雪に覆われ、風も強いようである。  手首に取り付けた機械を確かめ、ボタンを押す。  光と共に彼は消え、橇の上に現れた。 「私も早くパルムを使ってみたいな」  パクスロの手首を指さして、エルマが目を輝かせた。  顔をくしゃくしゃにしてパクスロが笑うと、彼女も橇に乗り込む。 「さあて、楽しい旅の始まりだ。  トナカイさんたち、日本まで頼むよ」  空高く舞い上がると、ひときわ大きな光を放って彼らの姿が(かす)れて消えていった。  デパートの裏手に降りると、2人はトナカイを帰して歩きだした。  クリスマスイブの夜に、プレゼントを効率よく届けるために現地の人たちの暮らしを知っておく必要があった。  サンタクロースは世界で最も有名な非営利事業である。  日本には煙突(えんとつ)のある家などないから、最新技術を駆使して屋内に移動し、騒ぎを起こさないように戻らなくてはならない。  パクスロの手首に取り付けた機器こそが「時空間物質転送装置」であり、パルスビームと呼ばれ、通称「パルム」と言うのである。
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