5人が本棚に入れています
本棚に追加
4
デパートの8階にある、イベントスペースに「フィンランドからやってきたサンタと記念写真を撮ろう」と大きな看板が出ていた。
白いふわふわした椅子に腰かけたパクスロと、母子がカメラマンに笑顔を向けていた。
パクスロなどは、口角を無理やり広げて目をまん丸にして輝かせ、すっかり板についたものだった。
つられて子どもも大口を開け、目を皿のようにして顔を瀞かせた。
幸せいっぱいなムードが、エルマのサンタクロースとしてのプロ意識に火をつけた。
「ゆうちゃん、サンタはね、人を幸せにするためにいるのよ。
サンタに会ったら、子どもは幸せになるの」
「うん」
予約客の合間に、パクスロとエルマは祐樹を間に座らせて、陽気にポーズを取った。
はにかみながらも、2人の勢いに乗せられたようだった。
それから、ホームでの暮らしや学校出の話などが、口を突いて次々に出たのだった。
「僕、将来サンタクロースになれるかな」
頬骨の辺りをポリポリと掻いたパクスロは、床に目を落とした。
「きっとなれるよ。
サンタ村にもおいでよ」
小さなプレゼントを手渡すと、白い歯をこぼして手を振りながら走って行った。
「ありがとう、エルマお姉ちゃん、パクスロさん」
祐樹の姿がエレベーターホールへ消えると、
「ねえ、何を考えたの」
エルマは少し暗い顔を見せた。
「サンタの世界も、厳しいものだからさ」
「まあね。
テロの現場を押さえたり、強盗を捕まえることもあったね」
「それもあるけど、冬の夜空を飛ぶだけでも本当は命がけだ。
笑って自分を殺せる奴だけが、本物になれるんだ」
「真面目に考えすぎじゃないかしら」
耳に「Silent night」の静かな調が響いた。
「ゆうちゃんだって、ギリギリの人生を生きているはずだ。
決して軽はずみに夢を語ったりしていない。
親なしで、あんなに明るく振舞う強さがあれば、きっと良いサンタになる」
「だったらそう言えばいいのに」
パクスロは黙っていた。
華やかな赤と白のサンタスーツと、緑のツリー。
底抜けに明るいだけに、影も濃い。
世の中は、決して光だけで成り立っているわけではないのだ。
児童養護施設で暮らす子どもが、何も知らないはずはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!