ほおずき、弾けて

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 その後、何人かの友人たちに彩香と伊崎のことについて聞いてみても、特に進展はなかった。  当たり前だ。伊崎に友人らしい友人はいなかったし、彩香は女子。弘也が話を気軽に聞けるのは男ばかりだ。  それにしても、彩香の現在について知る人間が誰もいなかったのは、予想外だった。よくも悪くも目立つ存在だというのに。女子ならば、何か知っているだろうか。  そんな風に思っていた弘也のもとに、彼女の情報がもたらされたのは、意外にも母親からだった。  母は、この辺で一番大きな病院で看護師をしている。もちろんこの病院も無理家が大きく関わっているから、弘也の学費や生活費は、気に入らないことに、無理家からの金なのだった。 「彩香お嬢さんなら、今、うちの病院に入院してるわよ」  医療従事者が、家族とはいえこんなにあっさりと情報を渡していいのか、と弘也はじと目で母を見た。母は悪いと思っていない顔で、 「よくはないわよ。でもねぇ、全然誰もお見舞いに来ないっていうのも不憫でねぇ」  と、お節介おばさんの片鱗を覗かせた。ああ、うちの母親もああいうばあさんになるんだろうな、と、伊崎のことを教えてくれた老婆を思った。 「入院って、まさか」  内科や外科のある一般的な病院だが、母が勤めている病棟は、山のふもとに隔離された場所だ。まさかそこにいるわけじゃ、あるまい。  弘也の希望は外れ、予想は当たってしまう。 「そう……『うち』に入院しているの」  母がいるのは、病院は病院でも、精神科の病棟だ。  田舎では、身体の病気は受け入れられても、心の病気については偏見にあふれている。だから、この田舎の中でも人里離れた山に入院病棟はつくられた。  地元の名家の跡取り娘が、精神疾患で入院中とくれば、一大スキャンダルだ。当然、厳戒態勢を敷いた個室が当てられているし、家族が見舞いに来ることもない。噂はすぐに広まる。  弘也は母の忘れ物を届けに、精神病棟を訪れたことがある。それだけで遠巻きにされたから、実際に入院している人の家族は、どれほどの偏見にさらされているのか、想像に難くない。 「気が向いたら、お見舞いに来てあげてちょうだい」  ひとり残された患者を、母は気遣う。  そんな彼女に、弘也は「気が向いたら」と、小さく頷いた。
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