カンゴク洞

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 「そういえば、この船食べ物はないのかな?」ハーメル・P・メルヴィルは不安そうに訊ねた。  「袋詰めのビスケットが常備してある筈だが」  「ビスケットっ!?」  「パンを二度焼きしたものや、乾燥させて水分を抜いて保存食にしたものだし、硬いし喉が乾くよ。それに船で食べるにはちょっとコツがいるんだよな」  ジュール曰く、ビスケットはうじ虫が湧きやすいので腐った魚で殆どのうじ虫を誘い出して除去して食べるのだが、全てのうじ虫がいなくなる訳ではない。だから「うじ虫が見えないように暗い所で齧るの」のが船乗りのやり方らしい。  「当たりたくないフォーチュンクッキーね」アリサはがっくりと肩を落とした。  「とにかく、せめて海賊に遭遇しない事を祈ろう」  ジュールがそういった途端、貨物室ががたんと激しく揺れた。積まれていた荷物もばらばらと落下し傾いた方向にずるずると引き摺られていく。 ジュールたちも唐突な傾斜にバランスを失いかけてしまう。  「海賊の襲撃?」  「いや、海賊ではないみたいだ。どこかにぶつかった音もしない、座礁や浅瀬に乗り上げた訳でもない! グリーンルーフだ、かなりでかいぞ、衝撃に備えろお!」  「グリーンルーフ!?」  「緑色の屋根って言う意味の超巨大な高波だ、みんな何かに掴まれえっ!」叫びながら、ジュールは貨物室の壁にしがみつく。  「今日そんな天気悪かったのか? 大時化が来るって聞いてないぞお!」ハーメルは散らばった荷物にしがみついた。  「嘘だろっ! 洞窟に着く前に難波は勘弁してくれえ!」スコットは置いてあった樽に抱きついた。  「誰か助けて!」アリサはスコットの脚にしがみつく。 グリーンルーフに煽られ、船体は右へ左へ不安定に揺れる。樽や木箱はゴロゴロと転がって来る。甲板でも船員たちが騒ぎたてている叫び声が聞こえて来る。やがてジュールたちの密航した船はマストがくの字にへし折れ、船体は真っ二つに割れた後に倒れるが、一旦立ち上がった後、垂直に沈んでいく。    
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