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三
「食べ物を見付けたらこんな所、早く撤退しよう」
じゃんけんの結果、ガレオン船の残骸の中を探索になったスコットは軋む音を立てる木の板をゆっくりと歩きながら食糧を探す。横倒しになり袋からばらばらとこぼれ落ちたビスケットや、フックが外れて床に叩きつけられた干し肉たち、それから飲みかけの酒瓶が散見されるが、気になる物を発見する。
『航海日誌』だ。
いつ、どこから、どこに出港したのか明確な日付けがわかるかも知れないと、ぱらぱらとページを捲って見る。
『マドロスからスペイルに出港して一週間、我々は人魚に遭遇した。人魚伝説はほんとうだった。高く美しいで歌い彼女たちは海の海藻を食べる、海の妖精だ。非常に人懐っこく穏やかである。ある地方では人魚の肉を食べて生き永らえていると聞いた事はあったが、それが本当にあったとは思わなかった。我々は沖でであった人魚たちをしばらく観察する事にした』
「マドロス製の貿易船みたいだ。人魚にあったって書いてある。歌を歌い、海藻を食べるとこもその目で見ていたんだ。人懐っこいのも納得出来るよ。彼女たちっていうことは人魚は女の子でしかも複数いたんだね。続きはどうなるんだろう」
スコットはジュールと知り合うまでは親しい友人がいなかったので「本」が唯一の友人だった。いつしか本の虫になり、気が付けば、本の裏読みと先読みや作者のことまで読めるようになっていた「文章は書いた人の全てが現れる」というのがスコットの持論だ。
『しばらく観察していると、人魚たちの様子が変わった。何か危険を感じたのだろう、船とは真逆の方角に逃げていってしまった。その時だった、あのグリーンルーフがパールプリンス号を襲ったのだ。我々は航海の途中だというのにこんなところで難波してるわけにはいかない。マルコ・シャアロキアン』
「この船、パールプリンスもグリーンルーフに襲われている。でもこの名字は僕と同じだ。親戚や兄弟にマルコという名前の人はいない。誰なんだ? とにかくこれも持っていこう」
スコットはパールプリンス号の航海日誌を手に取ると、ビスケットの袋と干し肉、それからランプと酒瓶に、転がっていたピストルを抱えて砂浜に急いだ。
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