カンゴク洞

7/21

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 「船のクルーが全員消えたってどういう手品だよっ!」ハーメルは声をあげた。  島の中で複数の人間が痕跡も残さず消えてしまうなんて手品、これまで聞いたも見たこともない猛獣や未開の民族に襲われたにしろ、何か痕跡は残る筈だとジュールは息を飲む。  「あたしたちも、この奇妙な島で、跡形もなく消されちゃうの?」  「それは回避出来るよ。ほら『ロープを持たせた』って書いてある、つまり調査済みのポイントまで目印がつけてある。そこからはぐれなければ霧の中で孤立する事はないよ」  スコットは記載されてある文章を指さした。  「スコットがガレオン船の中にいる間に、ボロボロになった縄のようなものを見付けた。恐らくそれだと思うけど、他に何か書いてないのかな」  「他にとは?」  「砂浜を調べてみたんだ、通常なら、貝とか蟹が棲んでる穴がある筈だけど、見当たらない。それに浅いところには小さい魚が泳いでいたりするものだけど、一匹もいない。まるでこの島には生き物がいないみたいに」  「生き物がいないて。何か発見していれば書いてると思う」スコットは航海日誌に指を滑らせる。 『私を慕ってくれていた航海士ニチル・ニルヴァーナ、いつもお世話になっている船医テッサ・ネオンライト先生、言語通訳士エルリア・バルボッサ先生や一生懸命操舵してくれる水夫のローパーくんやクルーたち、一体どこにいるのだ。霧に覆われ湿気もあるこの島では鳥も卵を産まないだろう。どうか生きていて欲しい』  「パールプリンス号に乗っていたクルーたちの名前だ。役職やどういう関係かもわかる。けれど鳥ですら卵を産まないと書いてあるから、本当にここに生き物は……」  「ちょっと待って、ここに『湿度がある』と書いてるだろう。キノコならたくさん生えている気がする。キノコの成長には湿度が必要なんだよっ! 脱出するまでどうやって食べていこうか考えていたけど、潮干狩りもダメ、魚釣りもダメ、蟹もいないし、フジツボの中身食べる方法もあるけどそれも無理だったけど、どうにかなりそうだよ」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加