カンゴク洞

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カンゴク洞

一  「一度入ったら二度と出られない洞窟がある」「その洞窟は地図にない」「ある者は南で、ある者は北で発見した」「その洞窟には世にも恐ろしい魔物がいる」「その魔物は洞窟の財宝をずっと守っている」だから、その洞窟に絶対に行ってはいけないと言われて来た。その洞窟の名は「カンゴク洞」というらしいが、そんな場所から『助けて欲しい』と助けを求める手紙が港に届いた。 差出人は不明、宛先も不明だがジュール・ベルニアンという少年はある事に気付いた。  「この手紙、瓶に入ってた。瓶からはお酒の臭いがする。助けを求めて来たのはどこかの船乗りに違いない。それとカンゴク洞の近くには海がある」  航海中、水は腐ってしまうので水の変わりに酒を飲むのが船乗りや海賊の習性で、水夫や海賊に大酒飲みが多いのはそれが理由である。カンゴク洞に到着したはいいが、文字通り出られなったんだとジュールは推測する。船を借りて沖へ出ればカンゴク洞のある島にたどり着けるかも知れないが、そもそも子供を一人で海に出すということを両親はよく思わないだろう。そこでジュールはある計画を立てた、次に出港する船に合わせてこっそり船内に忍び込むこと。すなわち密航だ。  「カンゴク洞って魔物がいるらしいけどどんな魔物かな?」  スコット・シャアロキアンは、怯えながら呟いた。  「一度入ったら出られないって噂から、察するに鮫などの大型で凶暴な魚の事じゃないかな。島の周辺をウロウロしていたら群れに食べられてしまうから」  「凶暴で巨大な魚がうろついている海の上にあるって、どうしてそんな厄介な場所に行きたがるんだ?」  「財宝が眠っているという噂があるけど、恐らくデマの可能性が高い。海賊は隠し財産を持てない決まりになっている」  「海賊のお宝ってあれは嘘だったのか?」  「これをお宝を売って得たお金としよう」ジュールはポケットから五枚の金貨を取り出した「まず船長に二倍、副船長には一・五倍、その他には一・二五倍の給料が渡される」自分から一人ずつ金貨を渡しながら説明する。  「すごくわかりやすい説明だけど、自分が船長みたい!」アリサ・クリステルは少し口を尖らせた。  「例えだよ。財産を隠そうものなら、船を降ろされてそれこそ流刑にされるよ。だから隠し財産は出来ない」  「でもある時は北だったり、南だったりと発見された場所もちぐはぐなんだけど」アリサは首を傾げる。  「ひょっとしたら浮島のような場所で、潮の流れに乗って移動しているのかも知れない。にしても移動範囲が広すぎる。潮の満干で現れたりする地形なのか? 港街の船乗りは色んな情報持って帰って来るけど、情報が足りないな」  ジュールはふむと考える素振りを見せる。
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