予見の一族

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「実は今回依頼したのは両親に言われたからなんです」 昴さんは困ったようにそう言った。 「そうですか」 今回のように、本人に近しい誰かの紹介でここに座る人間は珍しくない。 「私の婚約相手がどうも人間味がなく……」 少しの咳払い。 「いえ私にとっては素晴らしい人なんですけどね。どうも両親にとってはそうでもないらしくて」 昴さんの表情は少し曇っている。 「お金なら私たちが出すから一度名うての術師さんに相談してきなさいと」 どうやら今回の相談は、本人の意図したものではないようだ。 けれど、それもまたよくあること。 「それは結構なことです。それでは、以降は次回にしましょう」 私は、手早く切り上げることにした。もうこれ以上、話すこともないと判断したからだ。 「質問など、ありますか?」 最後に、義務的に尋ねる。 それに対して、半ば予想通り。昴さんが何かを尋ねることはなかった。 私は席を立とうとする。 そこで、思い出した。 「そういえば、言っておかなければならないことがあります」 昴さんは動きをとめた。 「言っておかなければならないこととは?」 私は少しためらう。 毎回のことながら、言わなければならない。しかし、これを言うと必ず変な顔をされてしまう。 それはそうだろうと私も理解している。 今から話すことは、本当のレアケースだ。 「妙なことを言うようですが、一応言わなければならないことなのでお伝えします」 昴さんはこちらをじっと見ている。 「もし仮に、その方が妖であった場合……」 「妖怪であった場合?」 話を聞くその顔は真剣そのもの。 「消してしまうことになります」 しばらくの沈黙。 そうして昴さんは理解できないという風に口を開く。 「誰がですか?」 「婚約者の方ですよ」 不思議なことに、時が止まったようになった。 それもわずかな間。 そのとき一瞬だけ。昴さんは絶望にも似た表情を見せた。 昴さんは、そんなほんの少しの時を経て何もなかったかのようにふるまっている。 私は、その時察した。 「その方は人間であるでしょうから、別に構わないのではないですか?」 私は、昴さんの心にとどめをさすように話しかける。 無慈悲なことだ。けれどそれは彼が、己で決めること。 「それはそうですけど」 焦っているからなのか額には汗が浮き、昴さんの顔は少し青白くなっている。 「すみません……この件は一旦持ち帰らせて頂きます」 そう言った昴さんはそそくさと席を立ち、今にも去ろうとしている。 私はそれを黙って見守った。 おそらく、彼が姿を見せることはもうないだろう。 それは、予見の力に頼らずともわかることだ。 私は、昴さんが部屋から立ち去る様子を黙って見届ける。 やがてその背中が完全に見えなくなるまで。
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