予見の一族

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「あれが噂の未来が見える術師の家系か」 「あの年齢で自分の派閥持ってるらしいぞ」 「すごい威圧感だな」 「未来が見えるだけの能力なんて正直弱いだろ」 「結局顔よ。他に優秀な能力の家系の人いっぱいいるし」 「そうだよなやっぱイケメンはずるいよな」 廊下を歩くだけでこんなにもざわめきが絶えない。 軽く睨み付けてやると短い悲鳴が上がった。 そんなに私に怯えるくらいなら陰口など叩かねば良いだろう。 そう思うと同時に、私は納得もしていた。 集団での暮らしというのは、何がなくともストレスが溜まるものだ。 あれから私は、師匠のいない中生きてきた。 以前であれば師匠がいない生活なんて想像もできなかったが。 それでも意外なことだ。 今は想像よりもはるかに平穏な暮らしを送っている。 いや、平穏というより諦めきってしまった。その表現のほうが正しいのかもしれない。 「盈月様、あのような輩の言うことなどお気になさらないでくださいね」 隣に立つ小雪が、私を気遣う声が聞こえる。 小さな背丈、美しい髪。そして明るい瞳。 ふと小雪の方を見ると、偶然目が合った。 「言われずともわかっておる」 私はぞんざいな返事をしてしまう。 なんとなく照れくさいような気がしたなんて、きっと誰にも言えやしない。 「誰がなんと言おうと小雪は盈月様の味方ですから」 優しい小雪は、それでも私に声をかけてくれる。 「……そうか」 隣でこちらを見上げている小雪の頭をそっとなでた。 小雪はこんな私にはもったいない程優しい。 私より背の低い小雪の愛らしいつむじ。それを見ているだけで少しだけ心が和む。 いつの間にか私も大きくなったものだ。 私は予見の一族の棟梁となった。 棟梁というのは、会議やらなにやらでやたらと呼び出しが多い。 それまでは、棟梁の仕事が内容。面倒だとか、忙しいだとかはそんなことは全く知らなかった。 それらは全て棟梁になってから、身を以て知ったことだ。 そのため、少し前から小雪が私の補佐官を務めてくれている。 いや、少し前だっただろうか……?もう二、三年は経つかもしれない。 「盈月様、本日はお客様がいらしています」 小雪はいつものように仕事の予定を教えてくれた。 「ああ、わかった」 小雪の言葉に、私は返事をする。 「面会の時間が近づいておりますので、そろそろ我々は応接室へ向かいましょうか」 小雪に袖を引かれ、私はいつものように仕事へと向かう。 木造の古めかしい廊下をしばらく歩き、いくつかの部屋を過ぎた。 私達が主に使用している客間は、渡り廊下を過ぎて三つの応接室。 古めかしい引き戸を小雪が開く。 応接室の中。 そこには、既に客の姿があった。 その日の客は若い男。 スーツにネクタイ。フォーマルでいて無難な格好をしている青年だ。 「これはお待たせしてしまったようで申し訳ない」 私が部屋に足を踏み入れると、男は立ち上がる。 「どうぞ、お座りください」 声をかけるも、落ち着かない様子だ。 全く席につこうとせず、立ったままこちらをうかがっている。 「今回、依頼をお受けいたしました。盈月と申します。どうぞよろしくお願いいたします」 私は、客の様子を気に掛けながらも挨拶をした。 なんであれ、最初に挨拶をするというのは大事なことだ。 「いえ……お構い無く。それより尋ねたいことがあるのですが」 客は私の話を聞く余裕があまりないようだ。その顔色から、焦りが見える。
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