予見の一族

3/4
前へ
/4ページ
次へ
しかも、その焦りようは普通ではない。なんだか嫌な予感がした。 けれど私がしっかりしなければ、余計に客を不安にさせてしまうだろう。 「なんです?」 私が落ち着いて尋ねても、客は頑なに目を合わせようとしない。 もしかするとこの依頼は、とんでもなく面倒なのかもしれない。 彼の様子を見て、私は察する。 けれどこれも仕事だ。いつ何時も平静を装うことは忘れてはいけない。 「私は、妖退治で名のある術師の方を訪ねてきたのです」 そうですか。と、笑顔を作って適当な相槌を打つ。 この時、相手の話を否定してはいけないのはもはや常識だろう。 確かに話の通りであれば、不安になるのも仕方のないこと。 私の一族は、世間一般的には予見を司ることになっている。 「これって何かの間違いなんでしょうか」 それゆえこういったことを聞かれるのはよくあることだ。 もちろん、私は丁寧に説明をするつもりだ。 だが、正直に言うと、こう……何度も聞かれると説明は面倒になってくるところはある。 「いえ間違いなどではございませんよ」 私の都合は客には全く関係がないことだ。 私は軽く呼吸を整える。 何も問題はない。いつものようにやればいいことだ。 客は己の身に降りかかった災難で手一杯なのだから。私が気遣わねばならない。 「でもあなた様は未来予見などをなさっているお方ですよね」 じっと見つめていると、客は不満げにこちらを見た。 その時、はじめて目が合う。 「私は杯を使って未来を見ることもできますが、同時に妖を見破ることもできるのです」 座卓に手をついてどっかりと腰をおろす。客はまだ立っているが、もうそろそろ構わないだろう。 「なんとそのようなことができるのですか?!」 客は興味を示し、ようやく席についてくれた。 その声色は先ほどまでとは違い、軽くなっている。 「ええ、写真とお名前さえあればできますね」 私は小雪を呼び、杯の準備を頼んだ。 客の方に向き直ると、なんとなくばつの悪そうな顔をしていることに気づく。 「写真ですか、今手元に無いので取りに帰らないといけません」 客は、すみませんと申し訳なさそうに述べた。それを私はたしなめる。 事前に写真が必要だと伝えられていないのだから、持っていないのは仕方のないことだ。 「では、次回の面談で結構ですよ」 そう言うと男はどこかほっとしたような様子を見せた。 私は、小雪から差し出された手帳を開き、懐からペンを取り出す。 そうして、今日の日付を見つけ。先のページをぺらぺらと見た。 そうして予約のない空いた箇所を探す。 「今、ご予約をお取りしましょう。まずは、お名前をうかがっても?」 ほんの少しの困惑。 「あら、私はまだ名乗っておりませんでしたね。これは失礼いたしました」 話に夢中になって名乗ることを忘れていたと、客は恥ずかしそうに笑った。 私は、この時どんな顔をしていただろう。 「仕方のないことです。事情というものがあるでしょうから」 私は無意識に、ほんの少しの間手帳を見ていた。 同時に、なんとなく気まずいような気がする。それを悟られないようにすぐに視線を戻した。 「私は、昴と申します。よろしくお願いいたします」 客、いや……昴さんは、私を見て軽く微笑んだ。 それに対して私は軽く返事をする。 この時、なんと言ったかはあまり覚えていない。気がついたら私の視線はまた手帳に向いている。 私は人と話すのが苦手なのかもしれない。 いや、そんなことは既に分かっている。 少なくとも物心がついた頃には、そうであった気がする。 残念なことだ……。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加